姦通の女

人々が女を連れてきて、広場の真ん中にたたせた。

そして年長の男が言った。

「この女は売春をした。これは重罪だ。法律ではこういう女は石で打ち殺せと命じている。皆、どう思うか?」

すると、その場に居た「馬小屋生まれ」と呼ばれる男が進み出た。

馬小屋生まれと呼ばれる男は風変わりな男だったが、話に妙に説得力があり誰からも一目を置かれる存在だった。

その馬小屋生まれの男は静かにこう言った。

あなたたちの中で、罪をおかしたことがない者が、まずこの女に石をなげなさい。

これを聞いて皆が静まり返った。

互いの顔を見合わせたり、うつむくばかりで石を投げ出そうとする者はいなかった。

そして一人、また一人と立ち去りはじめた。

と、その時、地の底から響いてくるような低い大きな声で一人の男が怒鳴った。

「俺、罪を犯したことない! だから、俺、石を投げる!」

そう叫ぶや否やその低い声の男は人の頭くらいはあるかと思えるような大きな石を持ち上げ、女に思いっきり投げつけた。

石は女の頭に当たり、女の頭から血しぶきが飛んだ。

それを見て、その低い声の男は手を打って喜んだ。

「俺、正義の味方!俺、もっと石を投げる!俺、偉い!」

そして、男は手当たり次第、そこら中にあった石をいくつもいくつも女に投げつけた。

そして低い声の男は何度もこう叫んだ。

「おい!お前、売春婦!売春婦は死んで当然だ!死ね!ゲヒヒヒヒ!」

周囲のものは凍りついた。

なぜなら、その低い声の男は毎日買春しており、今回、この女が捕まったのも、この男相手に売春していたからなのだ。

自分が買春したことを棚にあげて、その買春相手の女に対してそこまで残虐になれる神経を皆疑った。

しかし、周囲の様子など全く気にすることなく、低い声の男はますます興奮して石を次から次に女に投げつけた。

それを必死で止めようとする馬小屋生まれの男も殴り倒して、低い声の男は女が死ぬまで石を投げ続けた。

「ゲヒーーーー!俺、正義の味方!売春婦は悪!俺は正義!俺、褒められる!俺、偉い!ゲヒヒヒヒー!」

男の名前はサムータといった。

(本文と写真は全く関係がありません)

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2000年後の現代、低い声の男が叫んだ。

「ゲヒーーーーー!俺、大震災、大好き!」

低い声の主は、寒汰(さむた)と呼ばれる男だった。

いつも知ったかぶりばかりしていて、誰からも忌み嫌われていた。

「ゲヒーーーーー!俺、原発大好き!知ったかぶりしてもバレない!」

確かに、原発は元々専門知識のある人間が少ないので、知ったかぶりしてもバレにくかった。

それにしても寒汰の知ったかぶり、勘違いは今回の原発事故ではいつも以上に凄まじかった。

「福島原発は核弾頭である」「すぐに核爆発が起きる」「きのこ雲があがったのは核融合反応が起こったからである」「石棺を作れば今すぐに問題は解決する」「政府東電の発表は全てでたらめである」

寒汰はとんでもない誤情報を流しまくった。これらはパニックに陥った人間がでっちあげる、デマレベルの話である。

しかし、こういう震災の時にはそういうデマ情報を信じてしまう人間がいるのも確かであった。

「ゲヒーーーー!俺、皆が慌てふためくのが大好き!皆、俺のデマ情報信じる!皆、俺を博識だと思ってる!俺、偉くなった気分!俺、気分爽快!ゲヒーーーー!」

周囲の人間があわてふためくのを見て寒汰は大喜びした。

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「ゲヒーーーーーー!俺、震災大好き!俺、正義の味方になれる!何でも政府、東電が悪い!政府、東電死ね!ゲヒーーーー!」

寒汰はひたすら政府、東電を攻撃した。

非常時には人間は感情的になって単純な発想に走りやすい。

ある部分は正しく、ある部分は誤っているという高度な考えなどせずに「◯◯がやってることはなんでも悪い」という短絡的な考えに走りがちなのだ。

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自分では全く何もしないくせに、正義の味方と呼ばれることが大好きな寒汰はそういった人間の特性は本能的に分かっているようだ。

だから、今回、政府、東電さえ攻撃していれば、人々は自分を賞賛してくれると寒汰は思った。

そして、寒汰は震災で被害が出れば出るほど喜んだ。人々が傷つけば傷つくほど、怒りが充満するからだ。

政府東電さえ攻撃していれば、自分はそういう人々から応援されると思っていた。

「なんでも政府、東電が悪い!俺の体が臭いのも政府、東電のせいだ!原発の問題は簡単に解決する!原子炉をコンクリートで固めればすむだけだ!すぐに終わる!すぐにやらない政府、東電が悪い!」

普通なら簡単な作業が、放射線レベルの高い場所では、ましてや津波の被害のあった場所では恐ろしく困難な作業になること、また冷却されていない原子炉はコンクリートで固めればすむものではないこと、そんな複雑な状況を寒汰は全く理解していていなかった。

そもそも類人猿以下の寒汰の脳では物事の多面性など理解できるわけがなかった。

「政府、東電が悪い!俺が女に生中出しできないのも政府、東電が悪い!原発現場の人間は怠慢だ!簡単な仕事くらいちゃんとしろ!とっとと働け!俺に健康被害があったらどうするんだ?俺は正義の味方なんだぞ。ゲヒヒヒヒ」

震災の後、すぐさまフィリピンに逃げ出して、毎日マニラで買春している寒汰が叫んだ。

危機から真っ先に逃げ出す正義の味方など聞いたことがないが、その滑稽さは2000年前、姦通の女に石を投げつけたサムータにそっくりであった。

自分の罪深さなどたなにあげ、自分が注目されるためだけにスケープゴートをひたすら叩くのがサムータと寒汰に共通する特徴だった。

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「ゲヒーーー!俺、罪を犯したことない。俺、正義の味方!悪いやつ死ね!俺だけが偉い!ゲヒヒヒヒヒヒ!」

寒汰の異常な叫び声は2000年の時を越えて異次元にまで響いていた。

そして、そんな「自称正義の味方」寒汰に対する人々の怒りも時空を超えて燃え上がっているのである。

 

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

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