マニラベイカフェそばのレストランにて I

児玉は長い前髪が特徴の若い日本人である。

今回、マニラで仕事に出張できていたが、仕事も早く終わったので、噂のマニラベイカフェへとやってきたのである。

マニラベイカフェでは多くの女が色めき立って児玉を見つめた。

若い日本人は珍しいからである。

なお、マニラベイカフェに居る女を観察していると面白いことが分かる。

彼女たちは、好みの男が来ると目を輝かせて秋波を送るが、寒汰のような異常に気持ち悪い嫌な男が来るとそっぽを向く。

それでも、しつこく粘着質にそういう気持ち悪い男に見つめられると

彼女たちは腕を組み、上目遣いで口を半開きにして苦笑を浮かべるのだ。

これは、彼女たちの拒否サインなのだが、他人の気持ちが全く分からない、特に女とまともにつきあったことが57年間一度もない寒汰には、この拒否サインが見抜けるわけもなかった。

寒汰はこの拒否サインを見るたびに「ゲヒヒヒヒ、俺に惚れているな。ゲフッ」と正反対に勘違いしているのであった。

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児玉が連れだした女の名前はこずえ。幼い顔だが年齢は23歳である。

まずは食事を一緒にしようということになり、こずえに連れられて児玉はマニラベイカフェの近くのレストランに入ることになった。

そのレストランに入った瞬間、児玉は吐きそうになった。

凄まじく臭いのだ。

あまりに高濃度の放射線が発散されている場所では独特の臭気がするというが、その臭いはまさにこんなものだろうか。

その臭気の元は、もちろん、あの男、人間プルトニウム、寒汰であった。

寒汰は今日も一人で「ゲヒヒヒヒ」と嫌な笑い声を浮かべながらグッチャグッチャと汚らしく食べ散らかし、

いつものJINROチャムシルをガブガブと飲んでいた。

もちろん、JINROチャムシルは勝手に持ち込んで、水と氷は店から無料でくすねているのである。

普段はマニラベイカフェで何時間でも粘って座っている寒汰であるが、最近はマニラベイカフェにいる女どもに総スカンを食らっているのでさすがに出入りしにくくなっていた。そこで、こんな近くの店で粘っているようだった。

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この日、児玉とこずえはトコトンついていなかった。

店内にはその凄まじく臭い寒汰のそばしか席はあいていなかったのである。

しかし、これは当たり前である。他の客は誰も異常に臭くて気持ち悪い寒汰のそばなど座りたくないからである。

モーセが紅海をひらいたように、寒汰が店に座るとその周辺の席からは人がいなくなるのが常であった。

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席に座ったものの、こずえはとても嫌そうな顔をしていた。

実は、こずえは以前から何度も寒汰にマニラベイカフェで声をかけられていたのである。

寒汰の見た目は異常に気持ち悪い。

寒汰は不自然に染めた髪の黒さも異様だが(毛染め薬代をケチるために近所のドブ川のドブを塗りつけているという噂もある)、あの獣のような目付きも尋常ではない。

そしてなにより脂肪が垂れ下がっているとしか形容のしようがない不摂生きわまりないような外見は、女にとって生理的に受け付けられないのだ。

寒汰があの獣のような気持ち悪い目付きでじーっと眺めてくると、こずえはいつも腕を組んで上目つかい、そして口元に苦笑いを浮かべる、あの拒否のポーズをいつもするのだったが、寒汰はそれを全く勘違いしてこずえが自分に気があると思い込んでいた。

57年間、一度も女と付き合ったことのない寒汰には女の気持ちというものを全く理解できるわけがなかった。

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こずえも恐ろしく嫌そうな顔をしているのを見て、児玉は「この店はやめて別のところに行こうか?」と言った。

「オオ」とこずえが頷いて席をたとうとした瞬間、その後ろにいた悪臭獣、寒汰が突然声をかけてきた。

「ゲヒヒヒヒ、こずえ、お前、男を連れているのか。俺に紹介しろ。ゲヒヒヒヒ」

あの例の地の底から響いてくるような太く低い嫌な声だった。

こずえは思わず身震いした。

なお、この日、寒汰の方からこずえに声をかけたのであるが、寒汰は自分のブログにこう書いている。

(こずえに)声をかけられれたからそれなりに(話をした)

いつものことだが話を180度、勝手に作りかえる寒汰であった。

ちなみにエダモト(仮称)でも寒汰が無理やり他人の話に割り込んでくることは多いが、みずから望んで寒汰のような気持ち悪い臭い男に声をかける人間は誰一人居ないという。

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寒汰はいきなり、児玉に言った。

「おい、お前在日か?」

児玉は、面食らった。海外、特にマニラで話しかけてくる日本人にろくな人間はいないが、いきなり「お前は在日か」と聞いてくる人間などいない。

児玉は在日でもなく、在日に対してプラスもマイナスもなんの感情も持っていなかったが、いきなり「在日か」と言われると無性に気分が悪くなった。

たった一言でここまで他人を不快な気持ちにさせる男は児玉の務める会社、クサナーレにいる上司の土屋以外では初めてだ、と児玉は思った。

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「ゲヒヒヒヒ、マニラに居る東洋人は、日本人、在日人、韓国人、中国人の4つがいるんだ。どうだ?俺は物知りだろう?偉いだろう?尊敬しただろう?ゲヒヒヒ」

いきなり声をかけてきて、なぜそこまで在日にこだわるのか、児玉には全く分からなかったがとにかく不快な気持ちだけは倍増した。

実は、寒汰が在日にこだわるのは、子供のころ、母親が寒汰を完全に無視して他の在日の人間の相手ばかりをしていたことに起因するようだ。

しかし、そんな寒汰の個人的な感情など他人の児玉には知った事ではない。

初対面でいきなり「お前、在日か」と聞かれて気分がよいはずがない。

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「俺か?俺はな、正義の味方なんだ。年収が3千4百万円もある偉い男なんだ。お前の2倍以上あるだろう?どうだ?俺は偉いだろう?俺を尊敬しただろう?ゲヒヒヒヒ。」

初対面でいきなり自分が正義の味方と名乗る男はいない。しかも聞かれてもいないのに年収を言い始めるとは常軌を逸している。この男は気が狂っているのだ、そう児玉は思った。

「ゲヒヒヒ、そうだ。いいものを見せてやろう。」

そう言うと、寒汰は突然、水をお椀に入ったご飯にぶっかけて水浸しにした。

そして、それをスプーンでぐっちゃぐっちゃとかき混ぜながら、汚らしく食べ始めた。

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あっけにとられたのは児玉とこずえだけではない。

店内にいた誰もが驚いた。

仮にもまっとうなレストランでそんな異常な行動をする人間など見たこともないからだ。

ぐっちゃぐっちゃと嫌な音をさせて汚らしくご飯を食べ終わった寒汰は、あの獣のような気持ち悪い目でこずえを凝視して言った。

「ゲヒヒヒヒ、お前ら、フィリピンの貧乏人はこうやって飯を食うんだろう? どうだ? これで相互理解が深まったな。ゲヒッヒヒヒッヒヒヒッ!」

フィリピンでも本当の本当の貧乏人が全く何もおかずがないとき、ごはんに水をかけて食事をすることは極稀にある。

しかし、それでも、お茶漬けのようにご飯を水に浸すわけではない。

そもそもフィリピンの皿ではご飯を水には浸せないのだ。

さらに、そんな食べ方は間違っても外出先のレストランでは絶対にしない。

そんなものをいきなり見せつけられて「お前ら貧乏人の食い方だろう?」と言われても、バカにされているとしか思えない。

そんなもので相互理解が深まるわけがない。

憎しみが募るだけである。

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児玉とこずえがあきれ果てているところにさらに止めをさすことを寒汰は行った。

寒汰は児玉たちが来るまで、鯖を汚らしく食べ散らかしていた。

身はもうほとんど残っていなかったのだが、その鯖の食べさしを汚らしいビニール袋に突っ込んで、こずえに渡したのである。

「おい、お前らフィリピン人は余り物を持って帰るんだろう?俺のたべさしがもらえて嬉しいだろう?俺を尊敬しただろう?俺を好きになっただろう?ゲヒヒヒヒ」

日本以外の国ではレストランでの食べ残しを持って帰る文化があるが、本当の食べ差しをもって帰るのは自分の分か、せいぜい家族までである。

他人のためなら、持ち帰り用に別にオーダーをするのがマナーである。

ろくに知らない男にいきなり食べさしを渡されても、それは嫌がらせでしかない。

喧嘩を売っているのかと思えるほどである。

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寒汰などの自称フィリピンベテランによくある傾向なのだが、「フィリピン人を大事にしろ」「売春婦を尊重しろ」と偉そうにいう人間に限ってフィリピンの文化も精神性も、女性心理も全く分かっていない。

彼らは自覚してないようであるが、そういう偉そうなことを言う人間に限って深層心理ではフィリピン人を見下し、バカにしていており、自分の優位性を誇示して自分の日頃のストレスのはけ口にしているのである。

少なくともフィリピン人や女性心理が分かっている人間が、いきなりレストランでご飯に水をぶっかけて食うことなどしない。

自分の食べ差しを見ず知らずの人間にいきなり渡すこともしない。

自称フィリピンベテランが他の人間に「フィリピン人を大事にしろ」「売春婦を尊重しろ」というのは、自分が理解もしていないので怒られたことを他人に転嫁しているだけなのである。

つまり自称フィリピンベテランは、自分たちの誤った行為の自覚がない上に、その咎を他人に押し付けることだけは熱心なのである。

(続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

2 Responses to マニラベイカフェそばのレストランにて I

  1. GAGA says:

    ホームレス数人が手づかみで白飯を食べていました。おかずはありませんでした。

    決して水でビシャビシャにしていませんでした。

    寒汰が分かり合おうとしているのはホームレス未満のフィリピン人だと思われますが、そのようなフィリピン人は存在しないと思います。

    • なるほど、寒汰が分かり合おうとしている人間は、ホームレス未満の存在なんですねw

      そりゃわかりあえなくて当然ですね。
      そんな人間はいないわけですからw

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