プルトニウムとサマール島 I

寒汰は今日も朝からエダモト(仮称)に来ていた。

8年間フィリピンに通っているのにタガログ語もまるで話せず、友人もおらず、女にもろくに相手にされない寒汰には

エダモト(仮称)くらいしか行くところがないのだ。

テレビでは、福島原発のニュースをやっていた。

それをみて、寒汰はほくそ笑んだ。

「ゲヒーーーー!俺、原発のニュース大好き!原発のことなんて知らない奴が多いから俺の知ったかぶりがばれない!俺、好きなだけ知ったかぶりができる!ゲヒヒヒヒ」

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「放射能が水道に入ったな。もう東京も壊滅だな。福島原発の事故はな、チェルノブイリの数倍は酷いんだよ。ゲヒヒヒヒ。」

寒汰は心の底から嬉しそうに笑った。

寒汰には放射能と放射線、放射性物質の区別はついていなかった。

放射線で言うならば、チェルノブイリは25年経った今でも、石棺の周囲では3500ミリシーベルトの放射線が観察されるのだが、それに比べれば500ミリシーベルトの放射線が観察されたとかされないで騒いでいる福島原発周辺の放射線はまだまだ大したものではない。

それがチェルノブイリの数倍は酷いというのはどういう根拠があるのだろうか。

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「福島原発ではな、政府も東電も隠し事をしてるんだよ。チェルノブイリの数十倍は酷いな。ゲヒヒヒヒ。」

情報公開に関していえば、当時のソ連政府はチェルノブイリでで事故があったことすら隠蔽しようとした。

少なくとも周辺住民は知らされず、強制移動の段階になっても被曝を防ぐ手立てはとれれなかった。その結果、数万人とも数十万人とも言われる人間が癌でなくなったと言われている。

それに比べれば、今回の福島原発の事故では、政府・東電はいくつかの事実の隠蔽や数値の改ざんを行っている可能性は高いが、事故や施行手順は細かに発表していると言っていいだろう。

少なくとも日刊ゲンダイレベルの根拠の無い憶測よりは、まだ政府・東電の発表の方が事実に近いだろう。

いずれにせよ、秘密裏に処理が行われたチェルノブイリとは大違いである。

それなのに、チェルノブイリより数倍は酷いとはどういうことであろうか?

根拠なく周囲を不安がらせているとしか思えない。

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「原発の周囲の放射線はすごいな。チェルノブイリの数百倍はあるぞ。皆、死ぬな。ゲヒヒヒヒ」

また、寒汰がとても嬉しそうに笑った。

チェルノブイリでは爆発して飛び散った原子炉の破片(!)を防護服もない兵士に回収させていたのだが(その結果その日のうちに3千人が死んだと言われる)、それに比べれば福島原発の作業はむしろ慎重過ぎてもどかしいほどである。

作業員に許容される放射線は国際基準では500ミリシーベルトなのだが、日本は平常時でわずか100ミリシーベルトであり、今回特別に引き上げられたが、それでもまだ国際基準の半分の250ミリシーベルトなのである。

しかし、そんな冷静な事実の比較は寒汰のような知ったかぶり人間にできるわけもなかった。

寒汰は知ったかぶりをして、他人を不安がらせることさえできればいいのだ。

事実がどうかなど寒汰にとって関心もなかったし、理解する知性もないのである。

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テレビでは福島原発の三号炉が写しだされていた。

寒汰は大声でがなりたてた。

「いいか?お前ら、よく聞け。三号炉はな、プルサマールといって危ない燃料があるんだ。プルサマールはな、火がついたら核爆発するんだ。日本が潰れるんだよ。お前らの帰るところはなくなるんだ。もう核爆発まで秒読みだな。ゲヒヒヒヒヒ」

寒汰はとても嬉しそうに笑った。

他人を不安がらせるのが何より好きな寒汰であった。

そもそも、火がついたら核爆発だなど、物理現象と化学現象を一緒くたにしているのだが、周囲の者でそれに気づくものはいないようである。

そもそも、フィリピン嵌りのオヤジたちは中学生レベルの理科の知識もない人間が多かった。

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ちょうど店に居た青年 takeshi が寒汰に聞いた。

「寒汰さん、物知りなんですね。ところで、プルサ「マー」ルって何ですか?」

すると、寒汰はニンマリ笑った。物知りと言われたのが何より嬉しいのだろう。

本当に物知りなら、プル「サーマル」をプル「サマール」とは言うわけがないのだが、そんなことは中学生程度の教養すらない寒汰に分かるはずがなかった。

「ゲヒヒヒ。俺はな、知恵オタクだから何でも知ってるんだ。プルサマールとはな、和製英語でな、プルトニウムとサマール島ということなんだ。プルトニウムはな、実は第二次世界大戦中、日本軍によってフィリピンのサマール島で開発されたんだ。だからプルサマールと言うんだ。どうだ?俺は物知りだろう?俺は偉いだろう?俺を尊敬しただろう?ゲヒヒヒヒ」

プルサーマルをプルサマールと呼ぶのはおそらくフィリピン嵌りの人間だけだろう。

プルサーマルのサーマルは、フィリピンのサマール島 (Samar)とは何の関係もない。

「熱」の形容詞である thermal である。thermal がどうやったらサマールと思えるのか。カタカナでは似ているが、英語の発音では全く違う

しかし、そこが英語ができない悲しさなのであろう。th と s の違い、r と l の違い、a と er の違いが分からないのだろう。

それとも、フィリピンが好き過ぎて頭がおかしくなっているのかもしれない。

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ともあれ、寒汰の無茶苦茶な説明を聞くと、takeshi は目を輝かせて喜んだ。

「すごい、すごい!プルサーマルはフィリピンのサマール島で開発されたんですね!寒汰さんは本当に物知りですね!僕、尊敬します!」

それを聞いて寒汰は相好を崩して喜んだ。

子供のころから極度の無知と知ったかぶりで周囲からバカにされていた寒汰だが、フィリピンに来ると周囲に褒められる存在になるのだ。

無知の寒汰がフィリピンでは「知恵オタク」として認められるのだ。

まさにフィリピンは寒汰にとって天国だった。

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「ゲヒヒヒ、お前、分かってきたようだな。褒美をやる。ゲヒヒヒヒ」

そう言うと、寒汰はJALのラウンジから大量に盗んできたおしぼりをポケットから出して takashi に渡した。

あの10年間一度も洗ったことのないフィッシングジャケットに入っていたおしぼりは異常に汚く臭くなっていた。takeshi はあまりの臭さに卒倒しそうになったが、寒汰は全く気にする様子がなかった。

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「これはな、JALのラウンジから無料で奪ってきたおしぼりだ。俺は賢いだろう?お前、勘違いするな。俺はケチじゃないぞ。俺の年収は3千4百万円もあるんだ。お前の2倍以上あるだろう。だから俺はケチじゃない。俺は、偉いだろう?ゲヒヒヒヒヒヒ」

寒汰の経営する臭皇(くさおう)チェーンは年間の売上が3千4百万円だったが、もちろんそれは寒汰の年収ではない。しかし小学生並の算数もできない寒汰は売上と個人の収入の区別もついていなかった。

また、仮に年収が3千4百万円あったとしても大手銀行の管理職である takeshi の倍以上ということはない。takeshi の年収は既に2千万円以上あるのだ。もちろん、国鉄の給料しかしらない寒汰は銀行員がどれだけの給料がもらえるのか、知るわけもなかった。

さらに、年収がいくらあろうが、JALのラウンジでおしぼりを大量にかっぱらってくる人間はどう考えてもドケチだが、寒汰にはその意識は全くなかった。

寒汰は自分がケチとはこれっぽっちも思ってないのである。

(続く)

 

 

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

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