心が傷ついた

寒汰は今日もパサイの日本食料理屋、エダモト(仮称)で飲んだくれていた。

もちろん無銭飲食である。自分がエダモト(仮称)の功労者だと思い込んでいる寒汰は無料で飲み食いして当然だと思っているのである。

そもそも、店から「お代は結構ですよ」と言われるような特別な客は、他の客より気も金も使っているのである。

寒汰はネモトに貢献したどころか、迷惑をかけてばかりだった。

汚く臭い壊れたウォッシュレットを持ち込んできたり、営業妨害を行う客を紹介したり、JALのラウンジで盗んできたおしぼりを他の客に配るという嫌がらせをしたり、エダモト(仮称)が提携しているアトリウムホテルで騒ぎを起こしてアトリウムホテルの出入り禁止第一号になるなど、

ネモトにとっては、大迷惑な客でしかなかった。

(※ これらの逸話はもはやフィクションとしか思えないレベルであるが、全部実話である)

さらに、エダモト(仮称)のオーナー、マグロ子おばちゃん(仮称)に無理やり金を貸しつけて、ことあるごとに利子の返済を迫っているのである。

.

ともあれ、寒汰は店内のテレビを見ながら、今日もJINROチャムシルを飲んだくれていた。

もちろん、JINROは持ち込んだものである。水や氷は店に無料で出させている。つまみも無料の付き出しを何十個もお替わりしているのである。

無料となれば、いくらでも飲み食いする寒汰であった。

テレビでは福島原子力発電所の様子をうつしていた。

寒汰は機嫌が悪そうに毒づいた。

「全く、なんてざまだ。現場の連中は何をやってるんだ!冷却ポンプの燃料を入れ忘れるなんて怠慢だろう!けしからん!もっと集中して仕事しろ!ゲフッ」

そういうと寒汰はJINROチャムシルをガブガブ飲んだ。

事故を起こした原発周辺、しかも津波による瓦礫が散乱する中、たった50人に減らされた作業員がどれほど大変な作業をしているのか、日常なら簡単な燃料チェックでさえ容易にはできないことを、知恵オタクを自称称する割に寒汰は全く知らなかった。

「防護服を着ていて作業がしにくいだと? 甘えるな。気合が足りんのだ。気合があれば放射線なんか怖くない!防護服なんか脱いで裸で作業しろ!全く。放射線なんか怖るな!この根性なし!ゲフーーーー!」

寒汰は異常に汚らしい汚らしいゲップをしながら叫んだ。そして、マグロ子おばちゃん(仮称)に向かってこう叫んだ。

「おい!マグロ子!ここに置いていある荷物は日本から来たもんじゃないのか? 俺のそばに置くな! 放射能(※放射性物質と言いたいらしい)があたったらどうするんだ!大変なことになるだろ!俺の健康に配慮しろよ!このボケナス!ゲフッ」

原発作業員に放射線なんか怖がるな、と言い放つ寒汰であったが、自分自身は超微量のあるかどうか分からない程度の放射線すら怖がった。

.

「全く、原発の現場の奴らななっとらん。もっと汗水たらして働け!何十時間でもぶっ続けて働けよ!ゲフッ」

寒汰は51個目の付き出しをグッチャグッチャと汚らしい音をさせながら食べた。

原発では、一人当たりの被爆量を抑えるために、数十分ずつ(放射線量によって時間は異なる)交代で作業することになっているのだ。高いレベルの放射線がある現場では何十時間もぶっ通しで働けるわけがない。

知恵オタクを自称する寒汰だったがそんな基本的なことも知らなかった。

.

「現場のやつらは『優秀な』原子力エンジニアなんだろう?もっと気合を入れて働けよ!ボケッ」

原子力エンジニアは建築の世界でたとえればデザイナーである。事故現場の対応を原子力エンジニアだけでやってたら人数が足りるわけがない。現場にいる人間のほとんどは寒汰の仲間のブルーカラーの労働者である。工事現場にいる大多数の人間が日雇い労働者なのと同じことである。

寒汰は自称知恵オタクなのに、そんなことも知らなかった。

異常なコンプレックスの塊の寒汰は、悪いことは何でも「エリート」のせいにするのである。

.

「クソっ、政府が悪い、官僚が悪い、大企業が悪い。俺様は全然悪くないけどな。クソっ。なんだ?こいつらは? 貧相な顔をして会見しやがって。こんな顔じゃこいつら女にもてないな、ゲフーーーー!」

日本でもフィリピンでも女に裸足で逃げられるほど気持ちの悪い顔の寒汰が叫んだ。

「だいたい、なんだ?この枝野なんとかってのは? もっと働け。寝る暇があったら働け!俺なんか昨日9時間しか寝てないんだぞ。クソっ。政府が悪い、官僚が悪い、大企業が悪い。俺は悪くないけどな。クソっ」

毎日9時間はたっぷりと眠る寒汰が、ほとんど寝ずに連日会見を行っている枝野官房長官に文句を言った。

.

「だいたいな、こいつら福島から250Kmも離れた安全な東京でぬくぬくと暮らしやがって。クソっ。俺に放射線の被害があったらどうしてくれるんだ!けしからんな。クソっ! 政府が悪い、官僚が悪い、大企業が悪い。俺様は全然悪くない。クソっ」

福島から250Kmどころか、3千Kmも離れたマニラで毎日楽しく買春している寒汰が毒づいた。

.

「おまけに停電とかしやがって。電気なんかな、無料で提供しろってんだ。原子力は使うな!二酸化炭素も出すな!電気は無料で提供しろ!そんなこともできんのか。政府が悪い、官僚が悪い、大企業が悪い。俺様は全然悪くない。ゲフーーーー!!」

原子力も使わず二酸化炭素も排出せず、どうやって電気を安価に作るというのだろうか。現実世界では不可能なことでも、寒汰の妄想ワールドではいとも簡単に実現できるようであった。

.

「全く、どいつもこいつもなっとらんな。事故の解決くらいさっさとしろ。もっと働けっていうんだ。俺を少しは見習え! ゲフッ。政府が悪い、官僚が悪い、大企業が悪い。俺様は全然悪くない。ゲフーーーーー!」

ここ10年以上ほとんど働かず、マニラで毎日楽しく買春ばかりしている寒汰が怒鳴った。

.

「しかし、福島原発はもう終わりだな。後は核爆発するだけだ。半径1000km以内に100年は人が住めなくなるぞ、良い気味だ。なあ、お前、そう思うだろう?ゲヒヒヒヒ」

福島原発の20倍の放射性物質を撒き散らかしたチェルノブイリの事故でさえ、退避したのは半径30Km。しかも、その範囲内に残って生活した人たちもいるのだが、知恵オタクを自称する寒汰はそんなことも知らないようだった。無用な不安を煽るのは寒汰にとって何より快感なのもあるのだろう。

寒汰は近くに居た福島県出身の篤史に声をかけた。さっきから寒汰の無神経な言動を目にしていた篤史は怒りに燃えた目で寒汰を睨んだが、寒汰は全く意に介することがなかった。

人の気持ちが全くわからない寒汰であった。

.

「福島原発では核爆発。日本は破滅だ。もう終わり。もう一回言うぞ、日本は破滅、もう終わり!お前らももう買春できないぞ。いい気味だな。ゲヒヒヒヒッヒヒッヒ!」

寒汰はとてもうれしそうな声で下品に笑った。気持ちの悪い笑い声がエダモト(仮称)の店内に響き渡った。笑い声も気持ち悪かったが、何よりあまりに無神経な発言に、店内の人間は寒汰を睨みつけたが、カエルの面に小便状態であった。

ちなみに停止に成功した原発で核爆発など原理上起こりようがないのであるが、寒汰はとんでもないデマをぶちあげて他人を不安がらせるのが大好きであった。

それにしても、寒汰は自称知恵オタクの癖に核爆発と核分裂反応の違いすら理解出来ないようである。

.

ふと、寒汰の目に、心配そうな顔をしてテレビを見ている男の姿が目に入った。

男の名前は茂雄。岩手県に両親が住んでいるのだが生家のある街が津波で完全に破壊され、全く連絡がとれなくなっているのだ。

寒汰はノソノソと茂雄の席まで行き、あの異常に汚らしい手を差し出した。

茂雄はびっくりした。

茂雄「な、なんですか?」

寒汰「おい、お前? 分からないのか?義援金だよ。俺に義援金を払え。」

茂雄は仰天した。こんな強引な義援金集めは初めて聞く。それにそもそも被災者は茂雄の方なのである。

茂雄「はあ?義援金って、あんた、寒汰さん、あんたの釧路の店も自宅も無事でしょうが? 生家が津波で消え、両親が行方不明の私と比べてあんたに一体なんの被害があったって言うんだ?」

寒汰は一瞬、キョトンとした顔をした。質問の意味が分からぬといった表情である。

そして、あの獣のような不気味な目をぎょろつかせながら、こう言ってのけた。

寒汰「被害か?大被害だよ。俺の心が傷ついたんだ。両親が行方不明程度のお前のくだらない被害とは大違いだろう?早く義援金を俺によこせ。ゲヒヒヒヒ。俺、震災で金を儲ける。俺、賢いだろう? 俺、偉いだろう?俺を尊敬しただろう?ゲヒヒヒヒヒ」

.

これを店内にいる人間は殺気立った。

常日頃から寒汰の傍若無人ぶりには誰しも腹をたてていたが、この震災の大変な時にまでこの異常な行動は完全に皆の神経を逆撫でした。

この後、彼らの寒汰への怒りは、福島原発の溶解寸前の燃料棒よりも熱くなったいくのである。

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

2 Responses to 心が傷ついた

  1. Kim Joen says:

    まさかとは思うのですが、後半の茂雄氏とのエピソード、フィクションですよね。フィクションだと言ってほしいですが…。

    • 非常に残念なんですが… この茂雄氏との会話の部分は、ほぼフィクションです。
      もちろん、寒汰の過去の発言や行動をベースに再構成しているので、部分的には真実ではあるんですが。

      茂雄以外のパートは、寒汰の発言をほぼそのまま流用してます。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。