食べ残し II

妙子が帰った後、寒汰が汚く食べ散らかした魚が少し残っていた。

それを見て、寒汰はニタリと笑った。

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日本以外の多くの国では食べ残した食べ物を持ち帰る習慣がある。

(日本でも昔は折り詰めにすることは珍しくなかったが)

ここフィリピンでも持ち帰りは珍しくない。

自称フィリピンベテランの寒汰は8年間毎月フィリピンに通っているが、つい最近までそのことを知らなかった。

それも仕方あるまい。

寒汰は英語もタガログ語も全くできず、日本語情報だけで知ったかぶりしているだけなのだ。

何かを見て妄想することはあっても客観的な観察眼のない寒汰はフィリピンでは普通に残した食べ物を持ち帰るということに気づいてなかった。

だから昨年12月、クリスマス祝いとして寒汰が売春婦を数名レストランに連れて行った際も、寒汰は

「食べ残すような量は注文するな。勿体無いだろう。」

と、文化を無視したことを言ってのけ、売春婦たちに顰蹙を買った。

普段でも分け合うのが当たり前のフィリピン文化である。ましてやクリスマス祝いで、普段より豪華な食事をするのであれば、余分にオーダーして、余ったものを家族のために持って帰りたいと思うのが普通である。

しかし、知ったかぶりをする癖に現地文化への理解が全くない寒汰は、そんなことは露も知らず

「お前ら、安いカニで腹一杯にしろ。食べれる分以外はオーダーするな。」

と言っていたのである。(こちらのエントリを参照)

何より失礼であるし、フィリピンの文化や、クリスマスの喜びを皆で分け合うことを全く無視した発言であった。

当ブログで揶揄されて初めて、フィリピンの持ち帰り文化に気づいた寒汰は焦った。

そんな基本的な文化も知らないのがバレてさすがに恥ずかしかったのだ。

そこで、寒汰は今年になって、食事をするたびに持ち帰りをし、まるであたかも自分が前から持ち帰りを知っていたかのように振舞っているのである。

今年になってから、やたらめったら寒汰が食べ物の持ち帰りのことを書くのはそれが理由である。

知ったかぶり、見栄っ張りは、20年以上前から変わることのない、寒汰の悪癖であった。

ただ、付け焼刃はやはり付け焼刃に過ぎなかった。猿真似で持ち帰りをした寒汰は、現実の文化を全く理解していないのを今回も露呈してしまったのである。

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寒汰は汚らしく食べ散らかした魚をマグロ子おばちゃん(仮称)に言って、袋につめさせた。

「ゲヒヒヒ、持ち帰りを知ってるなんて、俺、すごいだろう?俺、フィリピン文化を知り尽くしてるだろう?俺、偉いだろう!ゲヒヒヒヒ!」

8年間毎月フィリピンに通っていながら、つい2ヶ月前まで持ち帰り文化を知らなかった男が何を偉そうな口を叩いているのだろう。

マグロ子おばちゃん(仮称)は呆れたが、何も言わずにただ頷いた。

こんなキチガイに何かを言っても無駄なのである。

8年間、この嫌な男にさんざん迷惑をかけられてきたマグロ子おばちゃん(仮称)にはそれがよくわかっていた。

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寒汰はホテルに着くと、ずかずかとセキュリティのところに寄っていった。

引きつった顔をしながら挨拶するセキュリティ。その顔の前に、寒汰はいきなりビニール袋を付き出した。

いきなり怪しげなものを付きつけられてセキュリティはびっくりした。

それに対して寒汰は謝りもせず、こう言った。

「おい、俺、持ち帰りしてきたぞ。お前ら、貧乏人で飢えてるんだろう?これ食え。嬉しいだろう?俺のことが好きになっただろう?俺、偉い!ゲヒヒヒヒ。」

セキュリティは日本語が全くわからなかったが、ただ食べかけの汚らしい魚をいきなり見せつけられてどうしようもなく嫌な気分だけは沸き上がっていた。

ここで一つ解説しよう。

フィリピンでは、食べ物を持ち帰るのがごく普通である。

ただし、食べかけのものを持ち帰るのは、多くの場合自分用のものであったり、せいぜい家族用のものである。

それ以外の人に持ち帰るのは、さすがに食べかけは失礼である。

だからフィリピン人は、食べ物を持ち帰りたい時、食べかけではなく、持ち帰るために別のオーダーして綺麗な状態のものを持ち帰るのである。

こんなことはフィリピン人と一緒に食事を何回かすれば誰でも気づくことである。

しかし、妄想癖だけしかなく、現実を観察する能力が根本的に欠けている寒汰はそんなことに気づいているわけもなかった。

なにせ8年間、毎月フィリピンに通っていたのに、持ち帰り文化を知らなかったほどの鈍感な人間なのである。

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戸惑っているセキュリティに対して、寒汰は言った。

「おい!この魚の名前はなんて言うんだっけ。ええと、とんか、いや違う。ちんぺ。違うな。えー、なんだっけ。そうだ、チンパだ。この魚の名前はチンパだろう?俺、すごい物知りだろう?俺、偉いだろう?ゲヒヒヒヒ」

しかしセキュリティは日本語が分からないし、突然チンパ (正確にはチンパではなくて tinpa )と言われてもよく分からなかった。

「あのー、これは tinpa (燻製)ではなくて、tuyo (魚を乾燥させたもの)だと思いますよ」

何度かやりとりをすると、タガログ語がほとんどできない寒汰もようやくこの物体が tinpa ではないことに気がついた。

「なんだと。この魚の名前は『ちんぱ』ではなくて、『つよ』なのか。なんだか覚えにくいな。」

日本語が分からないセキュリティだったが、気をきかせて、”tuyo” と紙に書いて寒汰に渡した。

すると、寒汰は異常に興奮して喜んだ。

「ゲヒ!俺、正しい魚の名前覚えた。これ、tuyo という魚だな!俺、博識!俺、偉い!偉すぎる!ゲヒーーー!」

もちろん、これは勘違いである。タガログ語が未だに全くできない寒汰は、単語レベルでしか聞き取りができず、しかも意思疎通ができないので、セキュリティが言った tuyo が、魚の名前ではなく料理の種類をさすことなど全く分かるわけがなかったのである。

「ともかくだ、この tuyo はお前たちにやる。お前ら貧乏人はどうせ食うもんもなくて飢えてるんだろう? 俺の食べかけがもらえて嬉しいだろう?俺に感謝してるだろう?俺を尊敬しただろう?俺、尊敬される!俺、偉い!偉すぎる!ゲヒッヒヒヒヒッッヒヒ!」

日本語が分からないセキュリティたちだったが、とにかく寒汰が失礼なことを言っていることだけは分かった。

寒汰の気持ち悪い笑い声を聞きながら、セキュリティたちは引きつった笑いを浮かべながら内心の怒りを必死でこらえていた。

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寒汰が意気揚々とホテルの中に入っていくと、セキュリティたちは話をした。

「ムカツクよな。こんなゴミをわざわざ置いて行きやがって。嫌がらせかってんだ。ゴミくらい自分で捨ててこいよ。あの汚らしい客は本当にいつも迷惑だ。いつかナイフでぶっ刺してやりたいもんだ。」

気持ち悪い汚い男から、汚らしい食べかけの魚を押し付けられて、それが差入れだと思えるわけがなかった。

ただのゴミを押し付けられたのだと思っていたのである。

寒汰に対して殺意さえ覚えるセキュリティたちであったが、寒汰は自分がまた尊敬されたと思い込んでいた。

文化理解もなく、語学力もなく、そもそも基本的なコミュニケーション能力が決定的に欠如している寒汰は誤解と勘違いをひたすら繰り返すだけなのであった。

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翌日、寒汰は再びエダモト(仮称)に現われた。そしてマグロ子おばちゃん(仮称)に偉そうに言った。

タガログ語や英語環境では恐ろしく気弱な寒汰であるが、日本語環境の時だけは異常に偉そうになるのである。

「おい、マグロ子。俺が昨日食べた魚の名前はな、『つよ』だろう。どうだ?俺、物知りだろう?俺、偉いだろう?俺、偉すぎるだろう?ゲヒッヒヒヒヒッッヒヒ!」

マグロ子おばちゃん(仮称)は呆れた顔をした。

「はあ?『つよ』って何よ? tuyo のこと? それ、魚の名前じゃないわよ。あれはサバよ。あんた日本人なのにサバもわかんないの? tuyo は調理法よ。干した魚はタガログ語で tuyo って言うのよ。まったく。」

寒汰は黙りこくった。寒汰は料理関係者なのに、実は魚の種類も全く分からず、料理の味も全く区別ができないのだ。

サバかそうでないかなど分かるわけもなかった。

しかし、異常に見栄っ張りの寒汰は自分の無知を全く認められないのだった。

「うるさい!うるさい!お前はうるさい!黙ってろ!俺は料理関係者だ!俺は料理のことなんでも知ってるんだ!俺が間違えるわけがないだろう!クソっ。悔しいから俺はまたブログで知ったかぶりしてやるぞ。見てろ!ブログでは俺は物知りなんだ。俺は最初から『つよ』もサバも分かってたことにするぞ!すると読者は俺のこと博識と思う!俺のこと褒める!俺、今日も勝った!俺、毎日大勝利!俺、偉い!偉すぎる!ゲヒーーー!」

阿Qをも超えるほどの精神勝利法を寒汰は身につけていた。

寒汰はどんな恥ずかしい間違いや失敗をしても、自分の妄想の中でそれを自分の勝利に変換する思考回路を持っているのだ。

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後日、寒汰はブログでこう書いた。

「俺が魚の名前を聞いたのに、調理法を答えた妙子は探究心がないのだ。探究心がないから milkfish とサバの区別もつかないのだ。」

自分の語学力不足や勘違いを棚にあげて他人のせいにするのは寒汰のいつものことであった。

また、Wikipedia で調べたことを、昔からさも知っていたかのように書くのもいつものことであった。

ちなみに、フィリピンでは milkfish などとは普段呼ばない。普通に bangus と言う。

また、英語圏では milkfish はとれないので、英語名で呼ばれることは他の国でもない。世界中どこに行っても滅多に使わない milkfish という表現をそのまま使っているのは、何も知らずにコピペした何よりの証拠だが、浅知恵の寒汰にはそんなことは気付くはずもなかった。

この寒汰ブログを見て、頭の弱いtakeshi (仮名)は叫んだ。

「凄い!凄い!寒汰さんは凄い!フィリピンと料理のことを知り尽くしている!俺、ますます寒汰さんのことを尊敬する!寒汰さん、凄い! 寒汰さんは天才だ!」

しかし、takeshi のように頭の弱い読者はさすがにごく一部であった。

大多数のまともな知能を持つほとんどの読者は、相変わらずの寒汰の知ったかぶりに気づき失笑していた。もちろん、そんなことは誤解と勘違いしかしない寒汰には分かるわけもなかったのである。

(食べ残し 完)

 

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

6 Responses to 食べ残し II

  1. gaga says:

    結婚式の席で

    「本当に出来の悪い娘でして、、、、」

    と談笑している時に外国人が

    「○○さんは立派で優しい人です。なんで皆、○○さんを悪く言うんですか?」

    と真顔で怒った漫画があったり、

    ドリフのコントで

    「つまらない物ですが、、、、お中元です」

    と電気店主の中本工事が長さんに電気製品のカタログを送ったりと

    謙遜は子供でも知ってる日本の文化ですよね。

    以前冗談で誕生日だから何かくれって言ったら本当にくれたウエイトレスが居て、本当は誕生日じゃない罪悪感からその日に定価だと諭吉さんくらいのプレゼントをした。その流れでデートしようか?って言ったらOKで彼女の仕事明けに食事に行った。ピザを食べたのだが頻繁にSMSが入る。男かななんて思っていたけど田舎から妹が遊びに来ていて「まだ帰ってこないの?」って催促(だと彼女は言っていました)。

    ピザをテイクアウトで注文して持たせて帰らせました。その晩、知らない電話番号からお礼のSMSが来ました。

    私の友人も兄弟が多かったり、子供が居たりと生活が大変なウエイトレスに彼女の好きな料理を頼んで口をつけずに「持って帰ってやれ」くらいのことは言ってますけど、、、、

    食べ残しを他人にあげるのは向こうがそれを望んでいない場合は「猫に餌」と同じ行為に思えます。馬鹿にしてるとしか思えません。

    まあ嫌がらせというなら理解は出来ますが、、、、通常の神経じゃないですね。

    • 仰るとおりです。
      寒汰のそれは、相手をバカにした好意ですね。もはや嫌がらせのレベルですね。
      一知半解いや一知0.01解だからこうなるんですよ。
      知ったかぶりせずに謙虚になれば、食べものの持ち帰りの文化も理解できるのに。

      フィリピン人が家族(別にヒモでもいいですが)のために食事を持ち帰りたいと言ったら
      気持よく余分にオーダーしてやるべきでしょうね。
      むしろ何も言われなくても自分からオーダーして持って帰らせてやるのが金持ち外国人としての正しいマナーだと思います。
      どうせ大した金じゃないんだし。

  2. gaga says:

    個人的にヒモがいるのは気になりませんが、おなかのロードマップは気になります。

    寒汰はアジアの貧困層の子供に飴をばら撒いて「私いい人、でも彼らが怠け者になるのでお金はあげません。」って言ってる頭の弱いおねーちゃん以下ですね。

    「gagaちゃんよ~買ってってやれよ~お前日本人だろ~ボランティアボランティア。」

    金遣いの荒い知り合いの社長の口癖が粋に感じる。

    • お腹のロードマップには笑いましたw
      まあ、自分が疲れているときの相手は経産婦の方が良かったりしますよね。
      イケイケの凹売りも概して子どもができると、性格が多少なりとも柔らかくなる気がします。

      寒汰は偉そうに正義を語りながら、その実、一番他人に迷惑をかけている人間ですね。
      はっきりってクズですよw

      彼が死んでも誰も悲しまないでしょうww
      罰として福島原発のプラント内で永久に作業してもらいましょう。

  3. Kim Joen says:

    寒汰さんブログ、災害にかこつけてひどい状況です。やっぱり、団塊の世代は政府を悪者にしないと生きてい
    けないのでしょうか。個人的にRSSリーダーでいろいろな方のブログを読んでいるのですが、寒汰さんは最初は「被爆」と「被曝」の違いがわかっていなかったようです。初稿では「被爆した人は190人」といういい方になっています。ふざけるな。

    • はい、寒汰はこういう時に無知っぷりを発揮しまくっていますね。
      被爆と被曝の区別は全くついていないですし、放射線量がどの程度で危険なのかも全く知識がないようです。
      自然界でもあるレベルの放射線量で「大変だ!俺、パニック!」と大騒ぎしているのは滑稽なほどです。

      先程も「きのこ雲が発生した!大変だ!」と大騒ぎしてますね。
      きのこ雲は核爆発でしか起こらないと思っているんでしょう。
      アホ丸出しです。

      ちなみに、今回の原発事故、USでは大事故として扱われていますが、かなり冷静に報道されてますね。
      ヒステリックに騒いでいるのは日本の民放だけだとも言われています。

      ま、無知な上に朝から晩までずーっとワイドショーレベルの番組を張り付いて見ている寒汰は
      その影響をモロに受けているんでしょうねw

      こういう有事の時ほど、人となりがよくわかります。

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