言語マジック (モーセに並ぶ男 II)

モーセが割れた紅海を進むかのごとく、寒汰はLAカフェ(現マニラベイカフェ)の中を進んだ。

あの混み合った店内が、寒汰の行く手だけさーーーっと人がいなくなる光景は圧巻であった。

寒汰に付き従うのは、マニラに来るのがこれが二回目というノボル(暗黒アルピニストNOBORUさんとは全くの別人です)であった。

「寒汰サは、ほんに凄い人でげすな〜。オラは感心しただ。」

と、ノボルは変な東北弁でしきりに感心していた。

そこにいる誰もが、寒汰を異常に嫌っていて我先に逃げ出そうとしているだけとは、フィリピン初心者のノボルには気がつかなかった。

やがて、寒汰はマニラベイカフェのカウンターに陣取ると、持ち込んできたJINROチャムシルをガブガブ飲み始めた。

そして、こうノボルに愚痴り始めた。

「クソっ、小向美奈子が俺の知っている店に現れたというから、予定を早めてマニラに来たというのに、小向美奈子なんかいやしない。俺の予定では今頃小向美奈子と変態SEXをしてるはずだったのによ!クソッ!」

寒汰は、1) ケバイ色っぽい姉ちゃん 2) シャブ好きの女 3)有名人が何より大好きであった。

その三拍子揃った小向美奈子が「俺の行きつけの店」の日本料理店に居たと報道されたものだから、寒汰はこれを運命と感じた。そして居ても立ってもいられなくてマニラにやってきたのだ。

ちなみに、寒汰をはじめとしてフィリピンに通う日本人の多くの行動範囲は異常に狭い

日本語の通じる環境から30分以上離れては生きていけない人間たちだから、行く店も恐ろしく限られる。

マニラが初めての小向美奈子がその恐ろしく狭い範囲内の店に立ち寄るのは運命でもなんでもなく必然であった。

語学ができない人間が住む世界は異常に狭いのである。

「そうでやんす。寒汰さがせっかく、マニラまでお越しになったというに、小向は全くけしからんでゲスなあ」

ノボルが相槌を打った。ノボルは寒汰のあまりに偉そうな態度を見て、寒汰がフィリピン買春界の巨人だと思い込んでいた。正確には巨人というよりは狂人であるのだが。

「クソっ、俺が来たのに小向美奈子は店にいないじゃないか。俺がわざわざ来てやったというのに。クソっ。あれは店がガセネタを流したんだ。客集めのためにガセネタを流したに決まっている! 俺、怒る!ゲフーーーーー!」

別に小向美奈子は寒汰のことを知ってるわけではないし、たとえ知っていても絶対に寒汰のことを待つわけがない。

ましてやどんなに金を積まれても、寒汰のような気持ち悪い男と変態SEXをしなければならない義理など微塵もない

しかし、ギネスブック級に自己中心的な寒汰は、こういう常軌を逸した計画を勝手にたてて、思い通りにならないと(思い通りになるはずもないのだが)すぐに周囲に当り散らすのが常であった。

そもそも、店が客集めのためにガセネタを流したなど、濡れ衣もいいところである。どんなことでも他人のせいにしないと気が済まない寒汰は、こういう濡れ衣をかぶせるのも大好きであった。

こういう狂った寒汰の行動のせいで売上が落ちた店も少なくない。寒汰はまさに歩く害悪であった。

寒汰はまたJINROチャムシルをガブガブ飲んだ。

「ゲフーーー!おい!ノボル!お前もな、俺みたいな立派なフィリピンベテランになりたかったら、もうちょっとタガログ語を覚えろ!」

「はいっ!そうでやんすな。オラのタガログ語じゃ、まだまだ寒汰サのよな立派なフィリピンベテランには程遠いだ。」

またしてもノボルは変な東北弁で答えた。

実のところ、今やノボルの方が寒汰よりタガログ語ができるのであった。しかし、日本語環境にいる時の寒汰の態度のあまりのでかさに、ノボルのような初心者は案外簡単に騙されるのであった。

ところで、アコとディバの二単語しかタガログ語ができない寒汰が「タガログ語を学べ」と偉そうに説教する話はフィリピン関係のネットでは有名な笑い話であった。「あ・魔尼羅(マニラ)」(仮称)のメンバーも、パライソ(仮称)のメンバーも、TOSHIYAさんも裏では嘲笑っていた。

他人に偉そうに説教するくせに自分は全く英語もタガログ語もできない寒汰は売春婦ともろくにコミュニケーションできなかった。

だから寒汰が連れて帰る女はいつも日本語が話せるじゃぱゆき経験者ばかりだったのである。

寒汰はブログでいつも「俺はじゃぱゆきが嫌い!」と書いていたが、その実、寒汰はそのじゃぱゆきとしか会話できないのであった。

寒汰がじゃぱゆきが嫌いというのは、例によって「俺、じゃぱゆき以外が好き -> 俺、英語もタガログ語も堪能」というありもしない能力を喧伝するためのごまかしなのだろう。

だいたい、EDSAが「エッサ」に聞こえたり、モーニングセットが英語だと思っている程度の語学力で英語やタガログ語が堪能というのには無理がありすぎるのだが、寒汰本人にはそれが全く分かってなかった。

「クソっ、あのコーヒーショップのウェイトレス。俺がモーニングセットと言ったのに無視しやがって。クソっ、ゲフッツ!」

寒汰は今日、朝に立ち寄ったカフェで起こった出来ことで愚痴っているようである。

寒汰はモーニングセットをオーダーしようとしたのだが、ウェイトレスが理解できなかったのである。

ちなみにウェイトレスは無視したのではない。モーニングセットなどという和製英語が理解できなかっただけである。

「あんな女、どうせ精子臭い女、こっちから願い下げだ!クソっ、ゲフーーーーーー!」

願い下げもなにも、ウェイトレスは寒汰に最初から気なんかないのである。

金をいくら貰っても寒汰のような気持ち悪いオヤヂの相手をするのだけは勘弁だった。

なにせまだ30歳の頃、毎日キャバクラに通いつめたのに、店の女全員に「気持ち悪い。あんな奴の席には絶対につきたくない」と蛇蝎のように嫌われていた寒汰である。

57歳になった今は気持ち悪さをさらに増していた。いくら金のためならなんでもするフィリピーナでも、寒汰みたいなオヤヂとだけは絶対に接触すらしたくないと思っていた。

寒汰に直に会ったことのある女性は皆言うのだが、寒汰はこの世のものと思えないほど気持ち悪い。

女が生理的に受け付けない気持ちの悪い男とは寒汰のことを言うのであろう。

自分が相手にされないと、すぐに「ヤリマン」とか「パンパン」「精子臭い」など、とんでもない負け惜しみを言うのも寒汰の特徴であった。

世界中の子供さえ知っているイソップ童話の sour grapes すら寒汰は知らないようである。

「いいか?ノボル?俺のようなモテモテのフィリピンベテランになるのに修行は厳しいんだぞ!俺みたいに女心をつかむのは、お前みたいなボンクラでは簡単ではないんだよ!」

日本でもフィリピンでも女性に蛇蝎のように嫌われている寒汰がどの口で女心のつかみ方を偉そうに説明するというのだろうか。

しかし、これは実は寒汰に限らなかった。日本では女性に死ぬほど嫌われている男が、フィリピンに通いだした途端に偉そうに女の口説き方を語るようになるのは珍しくない。

理由は二つあるだろう。一つはフィリピン・スーパーマン効果

フィリピン人はあまりに見え透いたお世辞言う。あまりに見え透いているので普通は吐き気がする。

しかし中にはそれを真に受ける男が居て、そういう男はだんだんと自分が素晴らしいモテモテ男と勘違いするようになるのである。

母親以外の女性から声をかけられたこともない醜い気持ち悪いオサーンが、「イカウポギーな」と一万回言われるうちに本気で自分が男前だと信じこむよになるのである。

まさに豚も木に登る。いや、豚が太陽圏外まで飛び出していくようなものである。

このフィリピン人独特の過剰なお世辞に加え、フィリピン嵌りの日本人のスペックがあまりに低いことも勘違いに輪をかける。

(ごく一部、素晴らしい外見や才能をもった人もいますが、やはり例外的存在です。)

周囲のフィリピン嵌りの男もあまりにレベルが低いので、自分が素晴らしい人間になってしまったと、どうしても勘違いしてしまうのである。

さらに加えて、オサーンたちは、自分たちの低スペックぶりを自慢しあうのが勘違いに拍車をかける。

フィリピン嵌りのオサーンが、呆れるほどに女扱いがひどかったり(女心云々以前に人間としてのマナーがなってない)、凄まじいファッションセンスをしていたり、異常にドケチだったり、ワガママや非常識が甚だしかったり、そんなことは世間からみれば人間としてクズにも等しいことなのであるが、寒汰のような人間は、逆にそれが偉いことだと勘違いしていた。

フィリピンに嵌りたて人間は、オサーンたちがファッションの趣味の悪さを自慢しあったり、ドケチ自慢しあったりするのに最初は凄まじく違和感を覚えるのだが、いつしかそういう人間も同じように堕落自慢をするようになるのが常であった。

(オサーンたちが低スペックを自慢しあったり、例外的に高スペックな人間を攻撃するのは、堕落した自分を直視しない、堕落した自分を安心さえるための自己防衛とも言えるだろう)

そもそも、買春ベテランを自慢する時点で人間のカスである。暗黒のオーラに囚われた人間は、そんなごく普通の常識にも気づかないようになっているのである。

かくいう筆者も、今やどれほど正気を保っているのか全く自信がない。少なくとも今の仕事をしておらず、フィリピンとしか接触がない人間なら、自分が寒汰すら超えるスーパーマンだと思い込んでいただろう。

なにせ、ハードディスクとメモリの区別もつかない男がコンピュータのエキスパートを名乗り、モーニングセットを英語だと思っている男が「俺、英語が流暢!俺、偉い!」とふんぞり返る世界なのである。

勘違いしない方が不思議なほどかもしれない。

さらに、もう一つ、寒汰のような人間がが勘違いする理由がある。それはミスコミュニケーション、ディスコミュニケーションだ。

たとえば寒汰のような汚い臭いオサーンにはフィリピン女どもも露骨に嫌悪感を示す。しかし未だに英語もタガログ語も全くできない寒汰は彼女らの嫌悪感あらわの言動を全く理解出来ないのである。

いや、理解出来ないどころか、逆の方に勘違いすらするのである。

「バホバホモタラガ!プータンイナモ!」

という罵詈雑言が、寒汰の耳にはこう聞こえる。

「私、あなたのことが好きで好きでたまらないの。私バカになっちゃたと思うくらいなの。寒汰様、私、あなたと早く結婚したいの。早くあなた様専用の性奴隷になりたいの」

言語の境界を越える時に起きる言語マジックである。

実のところ、国際結婚や国際恋愛が意外とうまくいく理由は、こういう都合の良い勘違いがあるからだと筆者は考えている。

いや、男女の仲に限らず人間同士のコミュニケーションというものは、多少のミスコミュニケーションがあった方が円滑になるのである。

全部相手に正確に意味が伝わったら、とげとげしいし、いつまでたっても話が終わらなくて大変である。

ただ、それにしてもだ、寒汰のような自称フィリピンベテランの勘違いは、想像を絶するものがある。

180度違うどころか、全く別のストーリーに変換してしまうのである。

その証拠に、寒汰のブログに書かれる女性の発言は、フィリピン人なら絶対にしないような発想、変な和製英語だらけである。寒汰の脳みそには、実際の女の言葉は1%すら伝わっていないのであった。

たとえば、寒汰が数カ月前にマニラのカラオケを連れ回した女がいる。名前を明美(仮名)と言う。

明美は寒汰のことを嫌で嫌でしょうがなかったが、数日間客もなく、やむにやまれず、寒汰に買われることになった。ただ、さっさとやることだけやって早く帰りたかった。

それなのに、寒汰は何時間も明美をマニラ中引っ張りまわしたあげく、最後には500ペソぽっちだけ渡したのである。

明美は憤慨した。激怒した。半端なく怒り狂った。

そして、寒汰に「数時間も連れ回したのだから、その分の対価はちゃんと払え」と文句を言った。

数時間、異常に気持ち悪く臭くて汚いオヤヂに付き合わされたあげく、たったの500ペソしかもらえなかたのである。

明美が怒るのも当たり前であった。

ところが、この件に関して寒汰ブログには、こう書いてある。

(明美が)「ホテルに連れて行け!」「朝まで泊めろ」「3Pで楽しませるから、もっと金をくれ」と言うのを振り切った。「ホテルに連れてけ!」と言われても「嫌だ!」なのだ。

実のところ、明美はホテルに連れていけなどと、一言も言っていない。

「何時間も連れ回したのだからその対価をくれ」と言っているだけである。

それが、寒汰の脳内では上記のように、明美がSEXしたくてたまらないように聞こえるのである。

ここまでの身勝手な解釈ができるのは、さすがのフィリピンベテランの中でも寒汰くらいであった。

ともあれ、これほどまでに女から嫌われている男が、「女心とは…」と説教をたれることができるのがフィリピンという国の摩訶不思議さであった。

.

さて、さすがに、この頃になるとノボルもだんだん、寒汰のことを少し不審に思い始めていた。

そもそもあまりに偉そうだし、その割には、肝心の情報もテクニックも全く披露しようとしないのである。

披露しないどころか、そもそもそんなものは全く知らず、ただハッタリをかましているだけではないかと思えてきた。

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

2 Responses to 言語マジック (モーセに並ぶ男 II)

  1. gaga says:

    彼女たちはいつ釣れるか分からないマグロ釣り漁師みたいなもの。来る日も来る日もLAカフェで長時間アタリを待つ。普通(子持ちのおばさん)で釣れるのは週2回程度らしい。

    数日の不漁続きの末、やっとマグロが釣れたと思ったら鯊だったとしたら彼女たちには気の毒だ。

    レストランでご飯を水でグチャグチャにして食べて理解し合えたなどと言っている時点で

    「俺とカラオケデートできたんだから彼女は嬉しいはず。普通のデートだからお金払う必要ない。でもタクシー代500ペソもあげた。俺、優しい、いい人。」

    なんて考えているような気がします。

    私が考えるに相互理解とは「相手の立場を理解尊重」したうえでの「妥協」だ。立場が違う「社長と従業員」、「剥奪する人とされる人」が理解しあえるはずがない。

    物売りが来ても買う気がないなら最初から断るべきである。営業妨害をするべきではない。

    「ローマ人はローマ人たれ(だったかな?)」と言われていたと思うが、ローマ人は他国に行ってもローマ人として恥ずかしい振る舞いをしてはいけないという戒めの意味があると友人が言っていたのを思い出します。

    • 釣れたのは、ハゼというより、ただの臭いゴミでは?ww

      > 「俺とカラオケデートできたんだから彼女は嬉しいはず。普通のデートだからお金払う必要ない。でもタクシー代500ペソもあげた。俺、優しい、いい人。」

      確かに、そう勘違いしてそうですね〜。
      彼女が怒り狂ってるのも、言葉がわからないから全然違う意味に勘違いしているみたいですしね〜w

      > 営業妨害をするべきではない。

      その通りですね。
      ただ、目に見えないもののコストは無料だと思い込んでいる寒汰には
      機会費用の損失は絶対に理解できませんww

      > 「ローマ人はローマ人たれ」
      でしたっけ? まあ、日本でも非常識な寒汰ですから、フィリピンでもどこに行っても非常識ですねww

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