マラテ・ボコボストリートのガールズバー

この日、サトーは機嫌よく飲んでいた。

マラテ・ボコボストリートにあるガールズバーは比較的店が新しいこともあり、高級感があり、気分良く飲めるのだ。

何より、今日という今日は、あの異常に臭くて汚い男、寒汰がいないのがいい。

サトーは晴れ晴れとした気分だった。

しかし、読者のご想像どおり、サトーの幸せは長くは続かなかった。

店の近くにジプニーが止まり、そこから凄まじい悪臭のする男が降りてきたのである。

10年間一度も洗ったことがないフィッシングジャケットがトレードマークのその男、もちろん寒汰であった。

手にはJINROチャムシルを持っていた。今日も酒を持ち込んで無料で飲むつもりなのだろう。

ガールズバーに入ってくると寒汰はすぐにサトーを見つけて行った。

「おい!サトー!お前、大親友の俺に会いたくてここまで来てたな。俺に会えて嬉しいだろう!ゲヒヒヒヒヒ」

凄まじく自己中心的な寒汰は自分が誰からも愛されていると思っていた。現実、寒汰と友達になりたいという人間はこの世に一人としていなかったのだが。

すでに寒汰は酔っ払ってきていた。

「おい!サトー!俺の店、臭皇(くさおう)はな、年間3千4百万円の売上があるんだ。俺、金持ち!俺、偉いだろう?ゲヒヒヒヒ」

サトーは気が滅入っていた。今日もこのくだらん自慢話に付き合わされるのかと思うと暗澹たる気分であった。

「いいか?サトー、今日はな、歴史の話をしてやる。俺はな、歴史を知っているふりをするのが得意なんだ。俺、偉いだろう?ゲヒヒヒヒ」

寒汰の歴史の知識は小学生並み..というと、小学生に失礼なくらい無知であった。なにせローマ帝国の勃興を千年以上勘違いしている男なのである。

「サトー、いいか?ここフィリピンではな、日本軍がフィリピン人をスパイ容疑で捕まえてたんだ。だからな、米軍がやってきた時に艦砲射撃でフィリピン人がたくさん死んだんだ。日本軍けしからん!米軍万歳!俺、偉い!ゲヒーーーー」

フィリピン人から見ればお前はそのひどい日本軍と同じ日本人なんだよ、とサトーは思った。

フィリピンに買春に来るオヤヂに典型的に見られるパターンだった。お仕着せの懺悔っぽい話をして自分がよいことをした気分になるのだ。

ようは、買春をしている後ろめたさを誤魔化すための勝手な偽善にすぎない。

そう思うと、サトーは反吐が出そうになった。

だいたい、米軍だってフィリピンではひどい事を散々しているのだ。ただ、戦勝国だからそれが正当化されているだけ。日本は敗戦国だから何かにつけて悪者にされている…と思ったサトーだったが、寒汰に説明するのはやめた。

寒汰のような低能な人間は、戦勝国の単純なプロパガンダを信じこんで疑いもしない。客観的に事実を判断する能力などないのだ。事実に多面性があることすら知りもしない。

「おい、サトー、今日、俺はな、物乞いに会ったんだ。フィリピンは今、景気が悪いということだな。俺、経済分かる!俺、偉い!ゲヒーーーー!」

サトーはまたしても呆れた。一人の物乞いに会っただけで、フィリピンの景気が悪いと判断するとはどんなけ単純な脳みそをしているのだろう。

そもそも今、フィリピンはEDSA革命以降、最高の経済成長をしている。中間層、上流層が増え、需要が活発になっているのだ。

今や9千万人を超えるフィリピン全体の経済がこれだけ成長しているのに、一人の物乞いにあっただけで「フィリピンは大不況」と言いきる寒汰の神経が信じられなかった。

しかし、サトーは言いたくなるのをぐっと堪えた。カエル程度の脳みそしかない寒汰に経済学など理解できるわけがないのだ。

「おい!サトー!おれはな、観光名所で無理やりガイドを申し込んで来る奴が嫌いなんだ。『あなたのために、やってやる』というおこがましさと、厚かましさがあるからな!俺、今、知的な発言した!俺、知性派!俺、偉い!ゲヒーッヒッヒッヒッッヒ!」

どんな人間でも、寒汰にだけは「おこがましい」とか「厚かましい」とは言われたくないだろう。

なにせ、寒汰は史上最強クラスに厚かましい人間なのだ。

ともかく、これ以上の長居はもう無用だとサトーは思った。

「寒汰さん、悪いけど俺はもう行くよ。もうトラブルには巻き込まれるのは勘弁願いたいからね」

すると、寒汰は一瞬寂しそうな顔をした後、ゲヒヒヒと笑いながらこう言った。

「おい!サトー!お前、あの『あ・魔尼羅(マニラ)』(仮称)が潰れた理由を知りたくないのか?」

サトーは一瞬固まった。「あ・魔尼羅(マニラ)」(仮称)と言えばフィリピン夜遊びの伝説的なサイトである。数々の素晴らしい情報を提供していたのだが、ある時、凄まじい内紛が起こって潰れたという。

当時のメンバーは誰しもその理由を語りがらないのだが、確かに当時から「あ・魔尼羅(マニラ)」(仮称)のメンバーであった寒汰なら経緯を知っているに違いない。

サトーは逡巡したが再び座った。

寒汰とこれ以上一緒に居るのは嫌だったが、伝説のサイト、「あ・魔尼羅(マニラ)」(仮称)崩壊の経緯が聞けるとなると別である。

(続く)

 

 

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

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