スターバックス II

寒汰はスターバックスで持ち込みのJINROチャムシルを飲んだくれていた。

もちろん、氷と水だけは無料で店からもらうのである。

もはや客ですらないのだが、あまりの寒汰の臭さと尋常ではない気配に恐れをなして、店員も何も言ってこなかった。

日もくれ、マニラには夜の涼しい風が吹き始めていた。

「おい!サトー!お前、俺の収入がいくらあるか知ってるか!?」

知るわけもないし、興味もないサトーは「さあ」とだけ簡単に答えた。

「教えてやろうか?ゲッヒヒヒヒヒ! 俺の経営する臭皇(くさおう)はな、年間の売り上げが3千4百万円もあるんだ。ゲフーーーーー!!」

意外と少ないな、とサトーは思った。3千4百万円から従業員への給料や食材費、その他のコストを除けば半分のせいぜい1700万円くらいだろう。

釧路で有名な飲食チェーン臭皇(くさおう)を経営し、仮にも地元で「社長」と呼ばれてふんぞり返っている男にしては大したことのない収入である。

「おい、サトー、お前はな、俺のことをケチだと思ってるかもしれないが、俺は本当は金持ちなんだ!俺を尊敬しろ!俺、偉い!ゲヒヒヒヒ」

サトーたかだか1700万円の年収で金持ちだと思っている寒汰が憐れになった。外資のIT企業のシニアクラスのマネージャーでも年収2千万円くらいはある。

「だからな、その辺のフィリピン買春オヤヂより、俺の収入は二倍以上あるんだ。俺、偉いだろう?ゲヒヒヒヒ」

サトーは一瞬、かっとなった。

「バカ言え!買春オヤヂでも年収1000万円を超す人間なぞ、いくらでもいる!何が二倍以上の収入だ。サラリーマンをナメるな!」

と言いかけたがやめた。

どうせ寒汰のように極端なコンプレックスの塊は、自分に都合の悪い話は全て嘘だと思い込むのだ。

あたりはすっかり暗くなっていた。風が吹き、ドブ川よりも汚いマニラ湾から生臭いかおりが運ばれてきた。

しかし、寒汰の悪臭よりははるかに良い匂いだとサトーは思った。

「おい!サトー?お前分かるか?俺がどうしていつもバクラ軍団を連れているか?」

サトーは冷たく答えた。

「は?そんなの知りませんね。関心もないし。」

すると、酔っ払ってきた寒汰は突如あのおぞましいオネエ言葉を話し始めた。

「なによぉ、イカウ、アコに冷たいのじゃなくって?うふん。」

サトーの全身にぞぞぞ、と鳥肌がたった。56歳のオヤヂ、それも凄まじく汚くて臭いオヤヂ、風貌は勝新太郎、というより醜いオットセイのようなオヤヂがオネエ言葉を使うのである。

サトーはもう分かっていた。TOSHIYA氏が教えてくれたとおり、寒汰はホモなのである。

それも、女に全く相手にされないためにホモになったようなクズ人間なのである。

普段は、隠しているが、酔った時や、弱気になると、地のオネエ言葉が出てくるのである。

イカウ、アコのこと好きディバ?うふふ、隠さなくっても分かるのよ。」

サトーは必死で考えた。早く逃げ出さなくては。男として、と言う以前に生物として超えてはいけない一線を破られてしまう。

しかし、寒汰はサトーの必死の思いなど意に介せず続けた。

「アコはねえ、賢いのよ。アコがバクラといつも一緒にいるわけはね、彼らがアコの通訳や下の世話を全部やってくれるからなのよ。アコは英語もタガログ語も本当は少し苦手でしょう?」

『お前は苦手どころか英語など一切できないし、タガログ語も単語をむちゃくちゃに並べてるだけだろう!』と、サトーは思ったが口に出さなかった。

相手は危険な猛獣である。ここで刺激したら命をとられるより危険なことになる。

「だからね、アコはバクラに通訳や下の世話をさせてるの。それなら日本語しか分からないアコでもいろんな所にいけるし、いろんな事を簡単に調べれて、知ったかぶりもできるでしょう?アコ、賢いでしょう? そしてね、バクラが居ないときは、こうやって日本人に必ずアコの世話をさせるのよ。今日はイカウがアコの下の世話をする番ね!嬉しいでしょう?ゲホーッホッホッッホホ!」

サトーの頭の中では警報が大音量でなっていた。警戒レベル Max 、もはやいつ火山が爆発して火砕流がなだれ込んできてもおかしくない状態だ。いや、もはや火砕流がそこまで来ているといってもいいくらいだ。

サトーは必死で火砕流の流れを変えようとした。

「さ、さ、さ、さ、寒汰さんのブログはいつ見ても良いですね!」

寒汰は猛獣のような目を細くして笑った。あまりの気色悪い笑い顔にサトーは嘔吐物を噴水のようにふきだした。

嘔吐物が寒汰の顔にかかったが、寒汰は気にせずに口のまわりについたサトーの嘔吐物をぺろりと舐め、

「うふっ、美味じゃありませんこと?」

と言った。サトーはもう発狂しそうだった。

「アコのブログはねえ、とってもセンスあるのよ。アコは写真も文章もうまいでしょう?文章なんて歴史に残る名文を書いていると思ってるの。ゲホーッホッホッッホホ」

サトーはパニック状態になりかかっていたが、頭の片隅で必死に反論した。

『どこが名文だと?凄まじい悪文駄文じゃないのか?日本語にすらなってないだろう?あれのどこが名文なんだ?』

ここで、重度の麻薬中毒になった人間の話を少ししたい。重度の麻薬中毒の人間は、凄まじく汚らしい稚拙な絵を描いて、「俺、すごい名画がかけたよ」と自慢することがある。汚いだけならまだしも、なぜか絵の中に虫やゴミが塗り込められていて衛生的にも異常に汚いのである。もはや絵以前の問題である。しかし、本人だけは素晴らしい完璧な名画を書いていると思い込むのだった。

寒汰の文章もまさにそのレベルであった。

もちろん重度の麻薬中毒患者と同じですさまじく寒汰に自覚症状はない。自分では最高の名文を書いている気分になっているのである。

「アコの魅力はブログだけじゃありませんのよ? アコはね、正義の味方なのよ。ゲホホホホ」

子供向けのヒーロー番組でもあるまいし、自分自身を正義の味方という人間がいるか!とサトーは心の中で叫んだ。

ちなみに自分自身を正義の味方と呼ぶ人間は、凶悪犯罪者に圧倒的に多い。独りよがりな歪んだ正義感を振り回して善良な市民を次々に犠牲にするのが凶悪犯罪者の典型的なパターンだからだ。

もちろん、寒汰にそんな自覚症状はない。自分は世の中の害悪でしかないにも関わらず、自分が正義の味方だと思っていた。

「あら、アコ酔いすぎたかしら。ゲホホホ」

寒汰は席を立ち、のそりのそりとサトーの方に寄ってきた。

サトーは小便を漏らしながら叫んだ。

「助けて!誰か助けて!」

すると寒汰は満面の笑みをうかべながら言った。

「うふっ、安心するのよ。正義の味方のアコがここに居るわよ。ゲホーッホッホッッホホ!」

のそっ、のそっと、寒汰の凄まじく臭く汚い巨体が迫る。サトーはあまりの恐怖に気を失った。

その時、突如銃声がした。

PNP(警察)であった。

寒汰のあまりの悪行にたまりかねたスターバックスの店員が通報したのだった。

いつのまにか警察官はスターバックスをとりまいていた。

もちろん全員が防毒マスクを着用していた。でなければ寒汰の凄まじい悪臭攻撃にはたえられないからだ。

やがて一斉射撃がはじまり、聞いたこともないような珍獣の怪しい叫び声が、ドブ川よりも汚いパシッグ川の対岸までこだました。

(スターバックス 完)

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

2 Responses to スターバックス II

  1. デバンガーZ says:

    http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1311051878
    こんなモデルがあった。これを参考にして試算すると、氏の年収は売り上げの半分まではいかないだろうと思われ。

    • ありがとうございます。なるほど、この種の飲食店では、年収は売上の半分もいかないのですね。
      では、寒汰氏の年収も税込で1700万円以下ということになりますね。
      せいぜい1500万円くらいでしょうか。

      少なくとも「俺、金持ち!」と自慢するレベルではないですねw

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