スターバックス I

この日、サトー氏は、寒汰とスターバックスでコーヒーを飲んでいた。

「おい、サトー!スターバックスのコーヒーはうまいな。インスタントコーヒーとは大違いだな。ゲヒヒヒヒヒ!」

サトー氏はそっぽを向いていた。一体いつまでこんなキチガイ男に付きまとわれるのか。こんなことならもうフィリピンは引き払って日本に帰ろうかと考え始めていた。

しかし、今日は寒汰は酔っ払ってないので、あのおぞましいオネエ言葉を使わないだけでもまだましだった。

「やっぱりフィリピンではフィリピンのコーヒーを飲むのに限る。ゲフーーーー!」

寒汰はひときわ下品なゲップをした。サトーは呆れ返った。ゲップではない。寒汰がスターバックスがフィリピンのコーヒーだと思っていることに関してだ。

寒汰はフィリピン以外の外国にはほとんど行ったことがなかった。一度だけTOSHIYA氏に連れられてタイに来たことがあるが、売春婦にも誰にも相手にされずにフィリピンに逃げ帰ってきたのだ。

後にTOSHIYA氏は寒汰のタイ旅行のことをこう語っていた。

「フィリピンで何年も遊んどったら、どこの国でも遊べるスキル言うもんが身につくもんやで、普通はな。それがな、あの寒汰のおっさん、タイの売春婦相手になーんにもできへねんで。挙句の果てに嫌われて逃げ出されとるんや。売春婦に金払っとうのに何もせんうちに逃げ出される言うんはよっぽどやで。最後は『TOSHIYAさん、タイは面白くないから早くフィリピン帰ろう』って泣きついてきよるねん。きっしょいオッサンやで、ほんま。わっはっは。だからな、儂にはわかるで。あの寒汰のオッサンはフィリピンでも楽しく遊べてへんで。ほんまお笑い種やで、あの臭いオッサン。ガッハッハッハ」

ともあれ、そういうわけで寒汰はフィリピン以外の外国を殆ど知らなかった。

寒汰のようなフィリピンしか外国をしらないオサーンにはよくあることだが、フィリピンで見たものは何でもフィリピンがオリジナルだと思う性癖があった。ジプニーも、LRTも、KTVも、ゴーゴーバーも全てフィリピンがオリジナルだと思っているのだった。

(※ 全部他の国でもあります。フィリピンがオリジナルではありません)

そして、なんとスターバックスさえフィリピンがオリジナルだと思っているのだった。

寒汰自身がブログで認めているが、なんでもフィリピンがオリジナルと思い込むのは、卵から孵化した鳥が最初にみた動くものを親と思い込む、インプリンティング(刷り込み)の一種と言ってもよいだろう。もっとも教養の全くない寒汰はインプリンティングという用語など見たことも聞いたこともないのだったが。


「おい!サトー!知ってるか、数年前までは、メトロマニラのコーヒーと言えば 限りある店を除いてインスタントコーヒーだったんだぞ。俺、物知りだろう?俺、偉い!ゲヒヒヒヒ!」

サトーは思った。

『マニラでも昔から焙煎のコーヒーは飲めたよ。仮にもアメリカの植民地だった国だぞ?そもそもインスタントコーヒーより焙煎のコーヒーの方が歴史が古いんだ。』

数年前は寒汰は一人ではファーストフードの店くらいにしか入れなかったので、インスタントコーヒーしかなかったと勘違いしていた。

自分が見たものだけが世界の全てだと思いこんでいる寒汰らしい勘違いであった。

「その数年前にはな、セブやミンダナオでは本物のコーヒーショップがあって、茶やケーキが楽しめたんだ。俺、物知りだろう?俺、偉い!ゲヒーーーヒッヒッヒッッヒ!」

サトーは呆れた。スターバックスもUCCも、メトロマニラの方に先に進出しているのだ。セブの Bo’s チェーンが広まる前から複数のチェーンが出来ている。寒汰はそんなことも全く気づいてないようだった。

毎月、フィリピンに通ってきていったい何を見ていたというのだろうか?

そもそも、寒汰はセブにもミンダナオにもほとんど行ったことがない。ミンダナオにはTOSHIYA氏に連れて行ってもらった一回きりで、街の人たちと話したわけでもなかった。英語もタガログ語もできない寒汰にそんなことは無理である。彼はカガヤンデオロまで行っ他にもかかわらず、一軒の店でずっと飲んでいただけである。

そんな有様なのに、自分がさもミンダナオ通のごとく語るのは寒汰の得意技のことだった。

能力が全く無いにも関わらず自分を極限まで大きく見せようとするのは寒汰を代表とするフィリピン嵌りの日本人共通の特徴である。

低能ゆえの凄まじいほどのコンプレックスが根底にあるのは言うまでもない。

気づくと、寒汰はいつのまにか持参したJINROチャムシルを飲み始めていた。

スターバックスの店内で持ち込んだ酒を飲み始めるなど、常軌を完全に逸している。

しかし、店員は寒汰のあまりの臭さと異常なオーラにおそれをなしたのか、何も注意しに来なかった。

「おい、サトー!お前、店員に水と氷をもらってこい。もちろん無料でな!ゲヒーーーヒッヒッヒッッヒ!」

相変わらずの常軌を逸したドケチぶりであった。そして、寒汰はJINROチャムシルをガブガブ飲み始めた。

「おい!サトー!俺はな、フィリピンに来る日本人はみな、うそつきだと思っているんだ。」

サトーは少し驚いた。寒汰が珍しくまともなことを言ったからだ。

「たとえばな、あのH野だ。あいつが東大なんて嘘にきまっている!フィリピンに来る人間にそんな頭がいい人間がいるわけないからだ!ゲフーーーッ」

有名なH野氏が東大出身なのは事実である。嘘でもなんでもない。ただ、寒汰の人生で今まで一人も東大卒の人間には出会ったことがなかった。

そもそも寒汰は高校もろくにいっていない低学歴の代表格の人間だった。それゆえ極度の学歴コンプレックスを抱えていた。

高学歴の人間は全く意識しないのだが、寒汰のように極度の学歴コンプレックスを持つ人間は、誰かが「東大卒」と聞くと、それだけでまるで自分の存在を否定されたかのような気になるのであった。

東大だろうが早稲田だろうが慶応だろうが、世界的に見れば全く大したことはないし、日本の一流企業にいけばその辺の卒業生は、吐いて捨てるほど居る。全く稀少価値もない。だから、高学歴と言われる人間はそんなことはむしろ自分たちの学歴などむしろ気にしないのが当たり前である。

ところが、寒汰のように極度のコンプレックスのある人間は、他人の学歴を勝手に調べ、勝手に傷つき、勝手に怒り狂うのであった。

彼らの結論は単純である。

「◯◯が◯大卒だというのは嘘だ!」

と決め付けることである。

実際、フィリピンには自分の経歴をごまかしたり、見栄をはって嘘をつく輩が多いのは事実である。

しかし、「持たない」人間は見栄をはる必要があるのかもしれないが、「持つ」人間は見栄をはる必要すらないのだ。

自分が「持たない」人間である寒汰はそんなんことに気づくわけがなかった。

いや、正確には気づいているのかもしれないが、認めたくないのだった。認めれば自分が低能だと烙印を押された気になってしまうのである。

だから、寒汰は誰かが◯大卒だとか、某一流企業に勤めているとか、華々しい経歴を持っているとか聞くと、それを全て嘘だと思い込むようになっていた。

見栄っ張りの嘘だと思い込めば、相対的に自分が偉くなるような気がして気分がよくなった。

そもそも、嫉妬とコンプレックスの塊である寒汰のような人間には、見栄を張る必要がない人間を理解することは永遠に不可能なのかもしれない。

そう思うとサトーは寒汰が憐れに思えてきた。

日がくれ、風が少し涼しくなってきた。

しかし寒汰の愚痴は止まらなかった。

「おい!サトー!俺はな、嘘つきが大っきらいなんだ!ゲフーーーッ」

いつも他人の手柄を自分のものだと言い張り、知らないことを知らないと言わず、見栄っ張りの嘘ばかりついている寒汰だったが、とことん自分のことは棚にあげていた。

他人にはとことん厳しく、自分にはとことん甘く。これが寒汰の人生哲学だった。

そして、自分が見栄はりの嘘をつきまくっているので、他人も同じように嘘をつきまくっていると信じ込んでいた。嘘をつく必要のない人間がいることに寒汰は気づくことができないのであった。

(続く)

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

2 Responses to スターバックス I

  1. デバンガーZ says:

    スタバのマークである女神が、氏にはフィリピンの偶像に見えたのであろうと思われ。

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