ホモのリエントリパーミット I

この日、サトーはパサイの日本食料理屋エダモト(仮称)で食事をしていた。

あの寒汰に付きまとわれて疲弊しきった日から数日が経っていた。

マニラに住む人間、動物の全てに忌み嫌われている男、寒汰はすでに日本に帰ったという噂だった。

サトーは食事をしながらつくづく思っていた。

「寒汰さえ居なければエダモト(仮称)の食事も美味しいものだな。つくづく食事の味とは環境によるものだ」

サトーの心は晴れ晴れとしていた。高熱を出して寝込んでいたエダモト(仮称)のマグロ子おばちゃん(仮称)も今日は元気に働いている。寒汰が居なければ世の中はかように平和なのだ。

その時、突然パサイの上空を黒雲がおおった。そして空から大粒の雨が降ってきた。なぜか異様に臭い雨だった。

ネズミが一斉にパサイの街から脱走し始めた。

何事が起こったのかと人々が驚いていると、エダモト(仮称)の前、ブエンディア通りに一台のジプニーが止まった。そして、中から異常に臭い汚らしい男が一人のっそりと降りてきた。

(※ どうやら他の乗客はあまりの臭さにとっくに脱出したようである)

ジプニーから降りてきた男の鼻が曲がりそうな臭気にブエンディア通りに居た人々も我先にと走って逃げ出した。

そう、寒汰がやってきたのだ。

数日前、日本に帰った寒汰だったが、自分の店、臭皇(くさおう)の従業員に口すら聞いてもらえず、不満を募らせてまた魔尼羅にやってきたのだ。魔尼羅(マニラ)で異常に嫌われている寒汰であったが、日本ではもっと嫌われていた。

サトーは店内で滝のような脂汗を流していた。外から流れこんでくる凄まじい臭気で寒汰が来たのは分かっていた。

しかし恐怖で体が動かないのだ。

果たして、ドアが空き、あの異常に臭く汚い男、寒汰がのそのそと店内に入ってきた。

片手にはやはりJINROチャムシルが握られている。今日も酒を持ち込んで無料で飲み食いするつもりなのだ。

寒汰はサトーの前にどっかりと腰をおろし野太い声で叫んだ。

「おーい!水と氷を持ってこい。大根おろしシラスもな。もちろん無料でな。ゲヒヒヒヒヒヒ」

マグロ子おばちゃん(仮称)はまたしても「うーん」と言って倒れてしまった。

店内の客が皆慌ただしく会計を済ませ、毒臭気を吸い込まないように口と鼻をハンカチでおさえながら我先に逃げ出していく中、サトーは動けなかった。

蛇に睨まれたカエルとはまさにこのことなのだろう。

「おい、サトー、お前、俺に会いたくて俺を待っていたな。俺に会えて嬉しいだろう?ゲヒャッヒヒヒ!」

サトーの完全に凍りついた顔をみてどこが嬉しそうなのか誰にも理解不能だったが、妄想の中で生きる寒汰にとって人の表情など知ったことではなかった。自分の妄想が現実よりも優先するのである。

「おい!サトー、お前俺がどうしてこの店によく来るか分かるか? それはな、俺が、エダモト(仮称)を大きくしてやったからなんだ!ゲヒヒヒヒヒ!」

『ネモトは俺のおかげで大きくなった』と豪語する人間がこの世に10人は居る。ただしそのほとんどはただの常連客である。寒汰もそのうちの一人だった。寒汰がエダモト(仮称)にしたことといえば、せいぜい壊れた中古の臭いウォッシュレットを持ってきてエダモト(仮称)のトイレを壊しながらとりつけたことくらいだ。

もちろん、そのウォッシュレットはすぐに使えなくなった。エダモト(仮称)にとってはいい迷惑でしかなかった。おまけに寒汰はエダモト(仮称)に客を紹介していたが、寒汰が紹介する客はことごとくトラブルメーカーで、エダモト(仮称)はおかげで大損害を被っていた。

『俺がネモトを大きくした』どころか大きくなるのを妨害しているのは明らかだった。

「おい!サトー!俺はな、今、空港から来たんだ。でも、荷物をもってないんだ。俺は偉いだろう?ゲヒヒヒヒヒ」

日常生活で誰にも『偉い』と言ってもらえない寒汰はマニラに来ると、執拗に他人に自分を『偉い』と呼ばせようとしていた。そうでもしないと心のバランスがとれないのだろう。

「荷物を持つ人間はな、バカなんだ。だから俺はいつでもこのままの格好だ。海外旅行に着替えなんかいらないんだ。だからな俺は、この10年間下着を着っぱなしなんだ。俺は偉いだろう?ゲヒヒヒヒヒ!」

サトーは気が遠くなってきた。10年間一度も下着すら替えないのだから、寒汰が臭いのは当たり前だった。

しかし何より驚いたのは、10年間下着を着っぱなしというホームレスですら驚く不潔な行動を自分で「偉い」という神経だった。これで仮にも日本で飲食店を営む男なのだろうか?

「おい!サトー、今日はお前にありがたい話をしてやる。感謝しろ!ゲヒヒヒヒヒ!」

『あんたの話でありがたいことなんて何一つないんだよ!』と内心サトーは毒づいたが、声には出さなかった。恨みを買ったら後でどんな嫌がらせを受けるか分からない。

寒汰に凄まじい誹謗中傷を書かれて真っ当な職を失った人間さえいるのだ。(※ 事実です)

「あのな、いいか?フィリピンの入管のコンピュータと空港のコンピュータのオンラインには整合性がないんだよ。俺、コンピュータよく分かってるだろう?俺は偉いだろう?ゲヒヒヒヒ」

『”オンラインに整合性がない”では意味不明だろ!?プロトコルは整合性があるに決まってるだろ!コンピュータどころかハードディスクとメモリの区別もつかない人間が偉そうなこと言うな!』

サトーは心のなかで叫んだ。寒汰は自分が全くわかってないことを分かったふりして話すのが大好きだったが、あまりに稚拙なので知識のなさがすぐに露呈してしまうのだった。

「おい!サトー!フィリピンのコンピュータはな、実は”1″か”0″しか記録できないんだ。だからすぐに記録が変わってしまうんだ。俺、コンピュータをよく分かってるだろう!俺、賢い!俺、偉い!ゲヒャッヒヒヒヒゲゲヒヒヒ!」

サトーは呆れ返った。デジタル記録をここまで勘違いしている人間が21世紀の現代にいるとは思わなかった。どうやら寒汰の脳内では、コンピュータの記録はすべてキーバリューシステムで、バリューは1ビットしか情報が入らないと思い込んでいるのだった。そして、それを”デジタル記録”と呼ぶのだと思っているのだ。仮にも先進国日本で教育を受けた人間がどうしてここまで勘違いできるのか、サトーには理解できなかった。

呆れ返っているサトーに対して寒汰は続けた。

「おい!サトー!お前、知ってるか?出国時にリエントリパーミットを毎回払いたくなかったらな、Visaを観光ビザに変えればいいんだ。俺、賢いだろう?ゲヒャッヒヒヒヒ!」

サトーはさすがに我慢しきれず叫んだ。

「馬鹿言うな!Visa は目的があるからとってるんだろう!それを捨てれるわけがないだろう!お前みたいに色ボケオヤヂに自慢するためだけにVisaをとってる人間と他人を一緒にするな!だいたい、Visaを持っていることが自慢になると思ってるお前の頭がどうかしてるんだよ!」

すると、寒汰は不機嫌そうな顔をして言った。

「うるさい!俺に口ごたえするな!俺は偉いんだ!文句があるなら在住の日系旅行会社に、問い合わせろ!」

寒汰はいつもそうだった。自分の話がおかしいのを指摘されるとすぐに他人のせいにするのだった。

何も確かなことは知らず、適当なことを妄想して言っているので、間違いを指摘されても反論のしようがないからであった。

(続く)

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

8 Responses to ホモのリエントリパーミット I

  1. デバンガーZ says:

    フィリピンにせよどこにせよ世界中のコンピュータは1と0の記憶から成り立っているなどと指摘するのは野暮であるだろうが、いずれにせよ寒汰氏の脳内コンピュータは量子的なのは間違いない。要は観測しなければ存在しないのだ。

    • デバンガーZさん、

      うまいことをおっしゃいますねw そう、量子力学の世界では観察しなければ存在しなかったり、
      観察すると存在しなかったりしますねw

      ニュートン力学が適用できない寒汰の脳内は量子力学的だったんですねww

  2. デバンガーZ says:


    その量子論的な意味において、フィリピン各所において比国人や法人が寒汰氏を無視するのは「観測しなければ実体が収束しない」のだから、正しいと思われ。

    • なるほど、量子論的な意味において、寒汰はフィリピンには存在しないのですねw

      そういえば、青山の Hootersに行ったと寒汰が豪語していましたが、
      (※ Hooters は青山にはないです。赤坂にあります。)
      これも量子論的に説明がつきそうですねw

  3. デバンガーZ says:

    ↑ いずれにせよ、量子論に寒汰氏が食いついてきたら面白い展開になると思われwwwww

  4. デバンガーZ says:

    ↑ できないからこそ書いてほしいと思われwww 

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