サントニーニョ信仰 III

アドボ子と待ち合わせが出来たと勘違いした寒汰は機嫌がよくなっていた。

JINROチャムシルを下品にガブガブ飲みながら言った。

「おい!サトー!カソリックは偶像崇拝じゃないって言ってた奴が居ただろう?」

当たり前だ!カソリックは昔から公式には偶像崇拝を禁止している宗教なのだ、とカソリック信者のサトーは思ったが口には出さなかった。寒汰に下手に口答えするとあとでどんな粘着な嫌がらせを受けるか分からない。

真っ当な人間ほど寒汰に付きまとわれることを恐れていた。

なにせ寒汰の誹謗中傷のおかげで真っ当な仕事を失った人間もいるのだ。(※事実です)

「俺はな、インターネットで調べたんだ。カソリックにも偶像崇拝はあるって分かったぞ!。サントニーニョを拝むのはカソリックが偶像崇拝だからだ。俺、後でブログにコピペしておく。すると皆を博識人間だと思う!ゲヒヒヒヒヒ」

寒汰はネットで調べたことをそのまま自分のブログにコピペしたり、さも昔から知っていたようなふりをして話すことが多かった。

一般社会では、ネットの文章をそのままコピペして自分の言葉のように騙っている人間は総スカンを食うのが通例である。

しかし、フィリピン嵌りのコミュニティは一般社会とはひと味もふた味も違っていた。

ネットの文章をコピペして貼るだけで

「凄い!凄い!なんだかよく分からないけど、きっと寒汰さんは賢い!」

と勘違いして褒めてくれる人間がフィリピン嵌りのオヤヂは少なくなかった。

一般社会では落伍者レベルの無知な寒汰もフィリピンはまりオヤヂの中ではいとも簡単に博識ぶることが可能だった。

「だからな、サトー、俺の方が正しいんだ。サントニーニョ像を拝むから、カソリックは偶像崇拝の宗教なんだ!俺、勝った!俺、偉い!ゲフーーーー」

エダモト(仮称)の床からカサカサと音がした。

寒汰のゲップのあまりの悪臭に、ゴキブリでさえ店外に逃げ出していったようだ。

それはさておき、カソリックの知識のあるサトーは呆れ返っていた。フィリピンで言うサントニーニョ信仰ははフィリピン限定のものである。正式名称は “Santo Niño de Cebú” つまり「セブのサントニーニョ」というくらいなのだ。

(※ 類似のものとしてプラハの幼児イエスキリスト “Infant Jesus of Prague” があるが、いずれにせよカソリックの公式のものではない)

サントニーニョ信仰はカソリック一般のものではない。カソリック教会はむしろサントニーニョ信仰には否定的なのである。

そもそも聖書では偶像崇拝は否定されているのだ。

それにまつわるカソリックの複雑な歴史を全く知らない男が、偶像崇拝呼ばわりとは失礼も甚だしい。

そう言いそうになったが、サトーはぐっと堪えた。

なにせ寒汰はカソリックとプロテスタントの区別もついてない男なのである。こんな男には何を言っても無駄であった。

「おい!サトー?お前は何教だ?ゲヒーーー!」

寒汰のひときわ高いゲップの音がすると、建物がガタガタと揺れ始めた。

どうやら雑菌でさえ寒汰のあまりの悪臭をさけて店外に出て行くようである。

サトーは心のなかで「俺は幼児洗礼受けたカトリック信者だよ!」と叫んだが、何も言わずにそっぽを向いた。

すると寒汰は続けた。

「当ててやろう。お前はオスケベ教やアンヘレス教の信者だな。ゲハッゲヒッヒヒヒヒヒヒ!」

恐ろしく嫌な笑い声が店内にこだました。

店内から外に向かって風が吹いた。サトーは息苦しさを覚えた。

どうやら空気でさえ、寒汰をさけて店外にでていくようである。

「そういうお前はキチガイLAカフェ教だろうが!」とサトーは心の中で毒づいた。

寒汰が待ち合わせをしたと勘違いした8時をとっくに過ぎていた。店には寒汰とサトー以外誰もいなくなって数時間が立っていた。

酩酊した寒汰がサトーに聞いた。

「おい!サトー!なんでアドボ子は店に来ないんだ?」

サトーは答えた。

「知りませんよ、さっき電話では、彼女あんたに会うくらいならサントニーニョ祭りに行った方がましだって言ってたでしょ!」

頭の片隅ではその事実が理解できていたのか、意外と寒汰の反応はしおらしかった。

「そうか.. 俺よりサントニーニョ祭りの方が大事なんだな。やっぱりフィリピン人は偶像崇拝が盛んだからだな。」

いくらしおらしくなっても、相変わらず勘違いしている寒汰にはサトーは何も言う気が起こらなかった。

アドボ子が「サントニーニョ祭りの方がまし」と言ったのは偶像崇拝とは何の関係もなく、寒汰と会いたくないだけのことだった。

「… 結局、どの女も俺の相手してくれない。俺、寂しい…」

すっかり酔っ払い、テーブルに突っ伏したまま、寒汰は涙を浮かべながら言った。

やはり人類史上まれにみる勘違い男なのだが、誰にも相手にされていないのは多少寂しく感じるものがあるのだろうか。

「なあ、サトー、俺もサントニーニョ像に祈ったら、願いが叶うかな..」

サトーは少し寒汰を憐れんだ。こんな史上最低クラスの非人間でも、正直になればしおらしくなれるものだな、と思った。

「寒汰さん、サントニーニョ信仰はカソリックの本家とは関係なく、フィリピンで勝手に作られた信仰だ。でも、心から祈れば願いは叶うかもしれんよ。」

すると、寒汰はガバっと起き上がり、大声でがなった。

「やっぱりそうか!俺、祈る!俺の願い、世界中の美人と死ぬまで生でS◯Xしまくる!一日100回は生中出しする!俺を馬鹿にした男達は俺の奴隷になって俺にヘーコラするんだ!どうだ!俺の願いすごいだろ!ゲヒヒヒヒヒヒ」

サトーは寒汰に少しでも憐れみを覚えたことを激しく後悔した。

そして、1万ペソをテーブルに置いて立ち上がった。

「寒汰さん、悪いけどあんたにはもうつきあえないよ。一万ペソ、あんたの飲み代と食事代はせいぜい数百ペソだからこれで十分だろ。これを置いていくから、もう二度と俺に話しかけないでくれ。」

そして静かに出口の方に向かって歩き始めた。

すると寒汰はびっくりしたような顔をして言った。

「おい!サトー!何を言うんだ!」

出口のドアに手をかけていたサトーの動きが止まった。

「サトー!1万ペソじゃ全然足りないよ!お前、俺と長い時間飲めて光栄だったろ!だからお前、もう3万ペソ置いていけ。俺、儲かる!俺、偉い!ゲヒヒッッヒッヒッヒヒヒ!」

サトーは一瞬でも寒汰に同情しかけた自分を激しく呪った。

そんなサトーに追い打ちをかけるように寒汰の異常に気持ち悪い笑い声がこだました。

エダモト(仮称)のみならず、パサイ全域にこだます凄まじい怪音であった。

ゲヒャヒッッヒッヒッヒヒヒゲゲゲ!!

あまりの気持ち悪さに、パサイ全域からネズミもゴキブリも、ありとあらゆる生物がブルブル震えながら脱出しはじめた。

そして、エダモト(仮称)の外のブエンディア通りにあるサントニーニョ像の目から黒い涙がとめどなくこぼれはじめた。

後年「サムタニーニョの涙」と呼ばれる神秘現象の始まりであった。

(サントニーニョ信仰 完)

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

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