サントニーニョ信仰 I

パサイの日本食レストランエダモト(仮称)はこの日も賑わっていた。

名物のマグロ子おばちゃん(仮称)も忙しく働いていた。

そんな時、突如エダモト(仮称)のドアが開き、凄まじい臭気が流れこんできた。

そう、あの異常に臭くて汚い男、寒汰が現れたのである。

手にはやはりいつものJINROチャムシルを持っていた。

寒汰は飲み代をけちるためにいつもJINROチャムシルを持ち込むのであった。

寒汰が現れたショックでマグロ子おばちゃん(仮称)フラフラになり、奥の座敷に横になった。

ほぼ満員だった客は皆、食事中にも関わらず、一斉にいそいそと帰り支度を始めた。

ちょうどその時、エダモト(仮称)に電話をかけてきた客は「え?今、寒汰が店に来たの?じゃあ、俺、今日はエダモト(仮称)に行くのやめるよ。ごめん。じゃあ!」と慌てて電話を切った。

寒汰はそんな気配を全く気にしないのか、偉そうに席にどかっと座った。

「今日もエダモト(仮称)は繁盛しているようだな。おい!マグロ子! エダモト(仮称)がはやっているのは俺のおかげだということを忘れるなよ。ゲヒヒヒヒヒ」

ネモトがあるのは自分のおかげだという人間はこの世に10人以上はいた。寒汰もその一人であった。

そして寒汰も含め、そのほとんどはネモトに何をしたわけでもなく、ただの常連客だった。

寒汰がエダモト(仮称)にしたことといえば、中古の臭いウォッシュレットを持ってきて、エダモト(仮称)のトイレをぶっ壊しながら無理やり取り付けたことくらいだった。

しかも、その中古の臭いウォッシュレットはすぐに壊れてしまった。

はっきり言って、寒汰はエダモト(仮称)に迷惑しかかけてなかった。

しかし本人にその自覚は全くなかった。

一斉に他の客が帰り始めたのにさすがに気づいたのか、寒汰は藤岡弘のようなあの低い声で怒鳴った。

「ん? 客の入りも安定しないのか?おい!マグロ子!俺がまた客を紹介してやろうか?ゲヒヒヒヒ」

寒汰が紹介する客はことごとくトラブルメーカーであることで有名だった。

つい先日も寒汰の紹介した客が大騒動を起こし、エダモト(仮称)は大損害を被っていた。

マグロ子おばちゃん(仮称)はそれを思い出してとうとう失神してしまった。

寒汰は帰ろうとする客の中に著名人H氏がいるのを見つけた。

フィリピン嵌りには珍しい東大卒のH氏は、その博識さと人柄で誰からも好かれていた。

ただ、彼の唯一の欠点は人が良すぎるところであろうか。

どんな極悪人にでもきちんと挨拶してしまうのが裏目にでることがあった。

そう、エダモト(仮称)のマグロ子おばちゃん(仮称)に紹介されて寒汰に一度挨拶したことは、彼の運命を完全に狂わせていた。

フィリピンには格言がある。

一度会ったら友人で、2度目会ったら親友。3回目から血が繋がる

しかし、寒汰の場合はこうだった。

一度会ったら親友で、2度目会ったら持ち駒

自己顕示欲が異常に強い寒汰は何より有名人が大好きであった。そして一度でも挨拶すれば、もうその有名人と親友を気取るのだった。二度会ったら、その有名人は持ち駒だと思い込むのであった。

有名人の上、東大卒であるH氏は、異常に学歴コンプレックスが強い寒汰の格好の標的になっていた。

先月、H氏はお忍びでフィリピンに来ていた。そこを運悪く寒汰に見つかってしまったのである。

すると寒汰は早速その日の寒汰ブログでこう書いた。

「俺、今フィリピンに居る。俺の下僕のH氏が俺に挨拶に来た。俺、東大の人間をこき使ってる。俺、賢い!俺、偉い!ゲヒヒヒヒヒ」

フィリピンに来ていることを公の場で公開されては、お忍びでフィリピンに来ていたH氏には大迷惑である。

それに、H氏はそもそも寒汰の下僕でもなんでもない。義理で寒汰に一度挨拶しただけで、本来なら寒汰は口も聞いてもらえない人なのである。

しかし、寒汰は自分が迷惑をかけたという意識は全くなかった。

それどころか、今回、エダモト(仮称)から出て行こうとするH氏にこう言ってのけたのである。

「おい!H!俺、お前のことブログで書いてやったぞ。感謝しろ!東大の人間が俺に感謝する!俺、賢い!俺、偉い!ゲヒヒヒヒヒ」

寒汰のように自分の頭の悪さが極度のコンプレックスになっている人間は、高学歴の人間にネチネチ絡んでは「俺の方が頭がいい!俺、偉い!」と妄想したがる傾向があった。

ともあれ、これ以降、H氏はエダモト(仮称)に二度と訪れなくなった。

怒りに肩をふるわせたH氏が出ていってしまうと寒汰は再び店内に顔をむけた。

すると会計が遅れていたサトー氏が目に入った。

サトー氏はこの日も運がなかったようである。

大殺界なのだろう。

「おい、サトー嬉しそうだな。俺と会えたのがそんなに嬉しいのか。俺、人気ある!俺、偉い!ゲヒヒヒヒヒ」

泣きそうになっているサトー氏の顔をみてそんな妄想ができるも寒汰ならではであろう。

「俺、お前と一緒に飲んでやる。お前喜ぶ。だからお前、俺の分の金払う!俺、節約家!俺、偉い!ゲヒヒヒヒ」

サトー氏は寒汰を睨めつけ、ギュッと拳を握り込めた。しかし何も言わなかった。

ここで何かを言えば、また寒汰ブログでどんな誹謗中傷を書かれるか分かったものではない。

過去には寒汰に根拠のない誹謗中傷を書かれて職を失った真っ当な人間もいるのだ。

寒汰はサトーが黙っているのをいいことにまたがなりたてた。

「おーい!マグロ子、飯を持ってこい!ガンガン持ってこい。今日は金を払うぞ。このサトーがな!ゲヒヒヒヒ」

数十分後、寒汰はいつものように酔っ払っていた。

「ゲフーーーー!フィリピンで飲むのはフィリピンの酒に限る!JINROチャムシルはフィリピンを代表する酒だからな!ゲヒヒヒヒ」

相変わらず、JINROチャムシルはフィリピンではなく韓国の酒だと知らない寒汰であった。

「おい!サトー!いいか?JINROチャムシルはな、この自然な甘さがいいんだ。お前には分からないだろう?ゲヒヒヒヒヒ」

JINROチャムシルは人工甘味料を使っている安酒だということを寒汰は未だに知らなかった。前人未到の味音痴の寒汰にはそんな区別がつくわけもないのだろう。

定食が運ばれてきた。すると寒汰は運ばれてきたおごはんの入ったお茶碗に水をぶち込んでお茶漬け状態にした。

そして、それをグッチャグッチャと汚い音をたてて食べ始めた。

寒汰の唾液が店の端にまで飛び散り始めた。正面に座るサトーの顔もすぐにずぶ濡れになった。

キッチンにまで寒汰の異常に臭い唾液が飛び始めたので店員があわてて裏口に下がっていった。

寒汰は言った。

「いいか?サトー。フィリピンの貧乏人はな、毎日こうやってご飯に水をぶっかけて食うんだ。どうだ?俺、物知りだろう?ゲヒヒヒヒヒ」

フィリピンで余程の貧乏人は本当に食べるものがない時、ごはんに水をかけて食べることもあるが、それは決してお茶漬けのように水に浸すわけではない

そもそも、フィリピンでは通常お茶碗は使わない。平たいプレートで食事をするのである。

お茶漬けのようにしようがないのである。

そんなレアケースな貧乏スタイル、それも勘違いした貧乏スタイルを、仮にも高級とされるレストランで実践するとは、もはや常軌を逸していた。まさに狂人の行動であった。

「おい!サトー!俺はフィリピンのことをよく知っているだろう?だから俺はフィリピン人と相互理解が深まるんだ。ゲヒヒヒヒ」

フィリピン人にとって羞恥でしかないそんな貧乏スタイルの食べ方を目の前で披露されたら相互理解が深まるどころか憎しみしか沸き上がるだけだとどうしてこの男はわからないのだろう。

いや、そんなことが分かるデリカシーをそもそも持ち合わせているわけがないのが、この男のこの男たる所以なのだろう。

寒汰の異常に臭い唾液で顔がびしょびしょになりながら、サトーは考えた。

店のドアが開いて、新しい客が数人入ってこようとした。

しかし、寒汰がいるのを見て皆慌ててドアをしめて走って逃げて行った。

(続く)

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

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