入国カード

寒汰はまだパサイの日本料理店エダモト(仮称)に居た。

寒汰のあまりに汚らしい食べっぷりにおそれをなして、他の客はいなくなっていた。

エダモト(仮称)のマグロ子おばちゃん(仮称)は泣きながら寒汰に言った。

「それで、あんた一体何の用で来たのよ!もうこれ以上店を滅茶苦茶にしないでよ!」

すると寒汰はキョトンとした顔をした。

今回に限らず、寒汰は生まれてこの方自分が悪いことをしているという自覚が全くない男であった。

自分が正義だと思い込んでいる凶悪犯罪者にありがちな傾向だった。

そして寒汰は脈絡なく言った。

「おい!お前、喜ぶ!フィリピンは1月は12月より旅行客が多い。お前、儲かる。そしてお前、俺に上納金余計によこす!俺、偉い!ゲヒヒヒ!」

1月は12月より旅行客が多いというのは寒汰の思い込みで事実は逆だった。

しかし思い込みのみで全てを判断する寒汰にとって、事実などもはや取るに足りないことだった。

彼にとっても事実とは自分の思いこみだけだからだ。

「ゲフッ。そうだ。俺の Visa また更新が必要な時期だろ?お前、書類記入しろ。」

寒汰は数年前にフィリピンのQuota Visaを取得していたが、その手続はすべてエダモト(仮称)のマグロ子おばちゃん(仮称)にやらせていた。

ちなみに、毎年必要なのは Visa の更新ではなく、単に料金の支払いだけなのだが、知ったかぶり大魔王の寒汰にそんな区別はつくはずもなかった。

おばちゃんが、すすり泣きしながら、書類を記入していると寒汰がまた言った。

「おい、シラス大根おろし、もっと持ってこい。もちろん無料でな!ゲヒヒヒヒ」

「俺、大根おろしがメニューに載ってたの知ってる。でも注文しなかった。でもセットメニューな無料で食べれる。おかわり自由。俺、金節約する!俺、偉い!ゲヒヒヒヒヒ!」

100ペソもしない大根おろしの代金をケチる寒汰であった。

そして、彼が食べるシラス大根おろしはこれが69皿目であった。

無料だと分かれば凄まじい量が食べれる寒汰なのであった。

次の日、寒汰は一人で魔尼羅の入国管理局事務所にやってきた。

いつもはエダモト(仮称)のおばちゃんに無理やり付き添わせてくるのだが、さすがに今回はマグロ子おばちゃん(仮称)も頑として拒否をした。

そもそも、あまりの寒汰の嫌がらせにマグロ子おばちゃん(仮称)も体を壊しかけていて、出かけるどころではなかったこともある。

「俺はフィリピンベテランって普段から自慢してるんだから、入国管理局くらい一人で行ってきたらどうなのさ!」

怒ったマグロ子おばちゃん(仮称)にそう突き放されては寒汰に選択肢はなかったのである。

入国管理局で寒汰はガタガタブルブル震えていた。

元々英語もタガログ語も一切できない寒汰である。

また度胸もなく、タクシーさえついこの間まで一人で乗れなかった男である。

そんな彼が入国管理局まで一人で来ることは大冒険であった。

いつものふてぶてしい威勢の良さは全くなかった。当たり前である。寒汰が威勢がよいのはマニラの日本語が通じる範囲内だけ。

日本語の通じない場所になると、どうしようもないくらい不安になってガタガタブルブルするのが寒汰の常であった。

こういう男は一般に日本語圏番長と呼ばれていた。

寒汰は自分に言い聞かせていた。

「俺、偉い!俺、大冒険した!俺、偉い!俺、書類手続できるはず!俺、偉い!」

「俺、マグロ子おばちゃん(仮称)に付き添いを断られてのと違う!俺、定点観測がしたいから自分でやってきただけ!でも、俺、怖い!」

ガタガタブルブル震える寒汰はふと、入国カードが山積みになっているのを見つけた。

実は寒汰は入国カードが大好きであった。

ブログにもなんども入国カードのことを書いている。

海外旅行をするたいてい人間からすれば、入国カードの記入など書式が変わろうが苦労することは全くない。

だが、寒汰のように英語が全くできない男にとっては入国カードの記入は超難関事業だったのだ。

(機内ではいつも他の人間に頼んでイミグレカードを書いてもらっていた。)

だから寒汰はフィリピンの入国カードが変わるたびに大騒ぎをしていた。

一方、そこまで入国カードで大騒ぎをする割に、寒汰はここ数ヶ月のフィリピンの入国カードに関する大騒動を全く知らなかった。

なにせ英語が全くできない寒汰である。英語ニュースが理解できるはずもなかった。

さらに、寒汰はフィリピンに居ても初心者しか行けないような買春場所に行くだけであった。さらに友達が全くいない男には一般的なニュースを耳にすることは一切なかったのである。

寒汰は興奮した。

「凄い!古い書式入国カードが置いてある!書式がまた変わった!俺、大発見した!世紀の大発見だ!!!」

英語で一言スタッフに聞けば事実が分かるのだが、寒汰にそんな英語力があるわけはなかった。

そして誰にも何も聞けない寒汰はいつものように強烈な勘違いをした。

寒汰は長い間待っていた。

するとあることに気がついた。高齢者はどうも優先的に受付をされるようなのである。

寒汰はまた興奮した。

「凄い!俺、大発見した!世紀の大発見!入国管理局では65歳以上の高齢者が優先的に受付される!俺、大発見!俺、偉い!」

実際のところ、むかしからフィリピン(や他の多くの国)では妊婦、子供連れ、障害者、高齢者には優先的に受けつけるシステムは珍しくない。空港の入国や出国でもそうである。

7年間毎月フィリピンに通いながら寒汰はそんなことも未だに知らずにいた。

一を見て十を勘違いする男なので仕方が無いのかもしれない。

やがて寒汰は入国管理局事務所を後にした。

支払いは…行っていなかった。

英語もタガログ語も全くできない寒汰は職員と何も話ができず、簡単な支払いすらできなかったのである。

打ちひしがれた寒汰の前をある小汚い女が通った。

そこで寒汰はひらめいた。

「そうだ!俺、入国管理事務所に女を見に来たことにする!俺、セクシー美女軍団を見たことにする!他の奴、俺をうらやましがる!俺、偉い!ゲヒヒヒヒ」

そして寒汰はブログでこう書いた。

顔の見慣れた東洋人や欧米人以外にも………この人たちはフィリピンでどんな職業や生活をしているんだろう? と興味を持つほど、美形セクシーな一団も………。 時間がないですから後はつけませんけどね。

その他、入国管理局周辺では、ご報告したいこと多々。
ぼちぼちとお伝えして参ります。

「ぼちぼちお伝えして参ります」は、何も書くことがない寒汰が思わせぶりたい時に書く常套句だった。

また、そんな美女軍団を見かけていたら異常なストーカー体質の寒汰がつけないわけはなかった。

少なくとも写真をとらないわけがなかった。

写真もなく、何も書けないのは当たり前である。そんな美形セクシー軍団など、どこにも居なかったからである。

相変わらずブログには妄想しか書けない寒汰であった。

「俺、美形セクシー軍団と会ったことにする!皆、俺を羨ましいと思う!ゲヒヒヒヒ」

マニラの路上に例の気持ち悪い笑い声が鳴り響いていた。

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

4 Responses to 入国カード

  1. 特派員66 says:

    特派員66と申します。貴ブログ拝見しました面白いですね。

  2. てっちゃん says:

    ここ最近の日本の寒さは「寒汰」の嫌がらせか・・・
    ゲヒヒヒヒって声が聞こえてきそうですね。。。(笑)

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