食性 – アドボ子物語 V

レストランで寒汰があまりに常識はずれな要求をしているのにアドボ子はびびりまくってしまった。

「こんなキチガイに付き合ってたら危ない。さっさと金だけもらってトンヅラしなきゃ。でも、まだ戦利品はゲトーしてないしどうすればよいのだろう」

逡巡するアドボ子を見て寒汰はまた勘違いした。

「お前、腹減った。そうだろう? 俺、料理作るうまい。お前、日本料理大好き言ったな。お前、俺の日本料理たらふく食う。お前幸せだな。ゲヒヒヒヒ」

アドボ子は寒汰の無茶苦茶なタガログ語の半分くらいしか聞き取れなかったが悪い予感に全身の鳥肌が立つのを感じた。

閑話休題。人間には食性というものがあるようだ。幼児期くらいまでに食べた食品によって、その人間が受け入れられる食品が規定されるという。

幼児期に豊かな食生活を送っていれば、大人になっても様々な食品を「美味しい」と感じることができるが、限定された食生活だった場合、大人になっていきなり食べ慣れないものを食べても脳や体の方が受け付けにくいという。

フィリピン人はこの傾向が強く、よほど日本生活が長いフィリピン人でなければなかなか日本料理を「美味しい」と感じることは難しいようだ。

特に偏った食生活を送ってきた、アドボ子のような暗黒階級の人間 なら尚更この食性が強い。

さて、寒汰はホテルのミニキッチンで得意げになにやらグロテスクな料理を作り始めた。

そもそも異常に臭い寒汰が作る手料理を食べたいと思う人間はいない。その寒汰が体臭以上に臭い料理を作っているのである。

やがて出来上がった料理は見たこともないおどろおどろしいものであった。しかもそこに寒汰は「これ、味音痴の素! 俺、偉い!」と叫びながらMSGを山のようにぶっかけはじめたのである。

ゲヒヒヒと下品に笑う寒汰に睨まれ、逃げ出すに逃げ出せずにアドボ子はとうとうその気持ち悪い料理を食べる羽目になった。

気持ち悪さをこらえて口の中に押し込んだその料理はアドボ子がこの世で食べた何よりも不味かった。

寒汰が「おい、お前、これ、うまいだろう?」と聞いてくるのにアドボ子は涙を流しながら

「オ、オイシイ(と言ったからもう許して)」

と言いながら気絶してしまった。

そして薄れゆく意識の中で「日本料理は今後絶対駄目だ。私の好きな料理はフィリピン料理だとかアドボだと今度絶対に言わないと命がなくなる。」と思うのだった。

涙を流しながら気絶したアドボ子を見て

「そんなにうまかったか。俺、料理うまい! 俺、偉い! ゲヒヒヒヒ」

寒汰の野太い声がど汚いホテルの一室に響き渡った。

魔尼羅に暗黒の瘴気が普段以上に立ち込める暗い夜の出来事であった。

(続く)

About plastictakata
暗黒の国フィリピンやパッツン天国タイでばら撒き、自主パト、凸凹するのが趣味の57歳のオサーンです

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