カガヤン・デ・オロ旅行記 I

寒汰が一人では、タクシーにすら乗れなかった話は何度か書いたとおりである。

(今はさすがに乗れるようになったようだが)

フィリピンに7年間毎月通っているが、いまだにフィリピン国内線の飛行機にも乗れない。

だからマニラ以外ほとんど、どこにも行ったことがない。

数回だけ友人に付き添われて地方都市に行ったことがあるだけである。

2006年9月、寒汰は数少ない友人Tさんから声をかけられた。

「あのな、寒汰のおっさん、カガヤンデオロには美人が多いで〜。儂が連れて行ったるから心配するこたあない。一緒に行こうや、な。どうせあんたは友達一人もおらへんし、暇やろ?な?」

友人からの誘いなど滅多にない寒汰である。一にも二もなく返事をした。

一人では怖くて乗れないフィリピン国内線(※ 海外旅行初めての人間でも普通は乗れます)も、友人と一緒なら怖いものは何も無い。

興奮した寒汰はいつも以上に機内でも盗撮写真をバシャバシャ撮りまくっていた。

隣の席で授乳する女性の姿をみかけると、狂ったように喜び勇んで、遠慮無くバシャバシャ盗撮していた。

あからさまな盗撮に困惑した女性はそっと胸を隠し、寒汰の方に背を向けた。

隣で見ていた友人Tさんも、さすがに見かねて寒汰に注意した。

「おい寒汰、写真好きなんもええけど、機内で女の胸の写真とかとるんはルール違反やで」

すると、寒汰はまた逆切れして言った。

「俺、盗撮してない!俺、目のカメラで撮ってるだけ!俺、偉い!」

これにはTさんも呆れて以後何も言う気がおきなかった。

一方、寒汰は母乳をあげてた女性がしくしくと泣き出しても一向に盗撮をやめず、着陸してもまだバシャバシャと写真を撮り続けていた。

カガヤンデオロについた寒汰とTさんは、路上のカフェでのんびり座っていた。

「どや?寒汰のおっさん。マニラとはまた違うやろ?フィリピンの田舎も町もまたええもんやろ?」

寒汰はとても興奮していた。なんせ海外はフィリピンしか来たことがなく、そのフィリピンには何十回となく来て居ながら田舎に来たことはなかったからだ。

「田舎、いい!フィリピンは田舎素晴らしい!俺、フィリピンの田舎味わう!俺、偉い!」

どこの国でも田舎は首都とはまた違ってよいものだし、フィリピン以上に田舎が素晴らしい国はいくらでもあるのだが、外国といえばフィリピンだけしか行ったことがない寒汰にはそんなことは当然分かるわけがなかった。

呆れたTさんは話題を変えようとした。

「ほれ!寒汰のおっさん、向こうからべっぴんさんが来たで。よく見てみいや。顔のつくりとか心なしかマニラとはまた違うやろ。鼻がすっとしとるあの女はスペイン系の血が濃いな。其の次の丸顔の女はインドネシアに近いで。こういうの研究しとったら骨格の専門家にでもなれる気がするな。がははは。」

それを聞いて寒汰はまた興奮した。

「俺、フィリピンの田舎来た!骨格違うの見た!俺、骨格人類学者になった!俺、学者になった!俺、歴史に名を残す!俺、偉いぃぃぃぃ!」

異常に短絡的な寒汰であった。数人の骨格、それも顔の表面を見るだけで骨格人類学者になれるなら誰も苦労はしない。

しかし、寒汰に限らず、フィリピンに嵌る日本人はなぜか恐ろしく短絡的で自分がスーパーマンになったように勘違いする人間が多いのだ。

  • 英単語を数単語知っている -> 英語のエキスパート
  • お札を数えたことがある -> 経営のエキスパート
  • 海外旅行したことある -> 超国際人
  • 買春したことがある -> 恋愛のエキスパート
  • フィリピンパブに行ったことがある -> フィリピンのあらゆることを知っている
  • 売春婦に大目に金を渡したことがある -> 国際援助のエキスパート。超正義漢

もちろん寒汰もその例に漏れなかった。それどころか、寒汰はそういう短絡的な勘違いが誰よりも激しかったのである。

(続く)

警察署への連行 – カラオケ(KTV)編 XV

寒汰は店内の女の子のスカートの中を片っぱしから盗撮しはじめた。

店内は大混乱に陥った。

女の子は逃げ惑い、他の客は呆気に取られた。

そんな中、店の No.1、カレンだけは落ち着いていた。

スカートの中を盗撮しようとする寒汰にも動じず、きっと睨めつけた。

これには寒汰も気圧されたのか、カレンにこう言った。

「おい、フラッシュライト出せ。お前のスカート長くてパンツが良く見えないから」

予想外の言葉に、さすがのカレンも冷静さを失った。

カレン「そ、そんなの持ってません!」

寒汰「フラッシュライト持つ、店の規則だろ。お前、規則違反。俺、店長に言いつける! ゲヒヒヒヒ」

周囲の誰もが『あんたに規則違反とか言われたくないよ』と思った。

(※ このあたりの寒汰の身勝手な言い分は、10/30、10/31 の彼のブログに書かれています。)

寒汰は叫んだ。「おーい!店長!」

そこにふくちゃんがセキュリティを連れて戻ってきた。

寒汰はニヤリとしながら言った。「おい、お前(カレン)、お前ペナルティな。ゲヒヒヒヒヒ」

しかし、ふくちゃんは、寒汰の言葉には全く耳を貸さずに、セキュリティを促し、即座に寒汰を店から引っ張り出させたのである。

事態が全く理解できない寒汰は叫んだが、もうふくちゃんもセキュリティも容赦がなかった。

寒汰は追い出された。やっと悪魔から解放されたと、店中が安堵した。

店長のふくちゃんは店のスタッフ、そして客を前に言った。

「ご迷惑をおかけしました。でももう安心してください。二度とあの人間はこの店には入れません」

安堵したせいなのか、ロラ子の嗚咽が一層激しくなった。

しかし、問題はまだ終わりではなかったのである。

それから4時間後の閉店間際になって、セキュリティがふくちゃんに報告に来た。

ふくちゃんの顔が青ざめた。

寒汰は店の入口が見える路地で、一人ジンロを飲みながら居座っているのである。

「ゲヒヒヒ、やっぱりフィリピンではフィリピンの酒だ!自給自足最高!サムスン製品を買う奴は韓国人だ!俺は日本国製品愛用だ!」

そう言いながら、グビグビと韓国製のジンロを飲んでいるそうである。

ふくちゃんの指令を受け、セキュリティが寒汰にところに行った。

「一体何が目的で居座っているか」

寒汰はこう答えた。

「俺、閉店なってロラ子が出てくるまでここで待つ!俺、粘着だから何十時間でも待つ!俺、偉い!」

「ロラ子、今日俺と一緒にホテル行く約束した!俺、ロラ子の凹が擦り切れるまで凸凹する!俺、偉い!」

そして寒汰はひと目もはばからず、自分の下着の中に手を入れ、凸をこすりはじめたのである。

あまりの気持ち悪さと臭さに、さしもののセキュリティも逃げ帰ってきた。

この話を聞いてロラ子は大声で泣きはじめた。

もちろん、ホテルに行く約束など全くしてないのである。カラオケには勘違いした客が多いが、ここまで勘違いした客はバホレディ始まって以来初であった。

ふくちゃんは、とうとうあるところに電話した。

そしてようやく事態は終結の方向に向かったのである。

ふくちゃんの通報により警察が駆けつけた。

職務質問に答えるどころか逆切れした暴れだした寒汰は呆気無く逮捕され、警察署に連行された。

寒汰ついに逮捕

連行された後の寒汰の言動はなんの論理性もなく、もはや薬物中毒患者のようであった。

「ロラ子は俺に惚れている。俺とホテルに行くのを待っている。」

「店長が俺とロラ子の仲を妬んで邪魔している。」

「あの店が悪い。俺が経営コンサルタントしたのに金を払わない」

「俺の食事無料、当たり前」

「あの店、なんでもダメ言う。店長が悪いせい。店長をすぐに首にしろ。」

警察はふくちゃん店長からも事情を聞いたが、もうふくちゃんも容赦はなかった。

寒汰は高額の示談金を払って翌朝解放された。日付は11月16日になっていた。

なお、寒汰は自分でブログに書いている。(11月16日の「黒番」でルーシアさんのコメントへの返答)

> 自ら望んで連行されただけ

> 貨物型のワゴン車にも乗ってみたかっただけ

> 内部の構造がどうなっているのか? 同行の方法や質問や取り調べの方法………。

> いろいろと体験してみないと判らないことがありますからね。

> 店の主人の言ったことに、額面どうりの言葉として忠実に従う娘が問題

> 事態発生から任意の調べ開放まで………その店のこと、警察の一般的尋問手順、

> 訴えるものとの和解仲裁………、

> 知りえることは、多かったです。

通報されて強制的に連行されたにも関わらず、「自ら望んで連行されただけ」とは負け惜しみもここまで行くと立派である。

そしてやはり、自分が悪いとは皆目思ってないところが寒汰らしいのであった。

いずれにせよ、カラオケ勤務の娘と凸凹するという寒汰の悲願は今回も果たされなかったのである。

ちなみに、この日以来、寒汰はマニラの日本系カラオケのほぼ全店で出入り禁止になったのである。

また、ロラ子はこの寒汰が起こした騒動のショックがあまりに大きく、この日で店を辞め田舎に帰ったという。

(寒汰物語カラオケ編 完)

マニラカラオケ経営理論 – カラオケ(KTV)編 XIV

マラテのカラオケ(KTV)、バホレディーを震撼させた寒汰の二回目の来訪は終わった。

寒汰が帰ると言った時に指名子のロラ子はうれしさのあまり涙を流した。

それを見た寒汰は例によって完全に勘違いした。

ゲヒヒヒヒといつもの下品な笑いを浮かべながら

「お前、俺に惚れた!心配するな!俺、また来る!次は一緒にホテル行く、約束な!」

と言いながら、汚い臭い顔をロラ子に近づけロラ子の顔をなめまわした。

異常に臭い唾液で顔をべたべたにされ、ロラ子はその場に崩れ落ちてしまった。

これを見て、さすがに人がいいふくちゃん店長も決意した。

「我慢もこれまで。次に店に来たらただではおかない。」

はたして、その後、日本に帰った寒汰はブログにバホレディ店内の盗撮写真を掲載し、そして店の悪口を書きまくった。

10/30, 10/31 のエントリがそれである。

  • カラオケ店は持ち込みを無料で認めろ
  • つまみは俺の好みのものを出せ
  • 無料で出せ
  • 俺の注文に応じて料理の量を1/4にして値段を1/3にしろ
  • 店の規則は俺のために曲げろ

つまみろ自分のために無料で出せなど、もはや客ですらない。

しかし、寒汰は自分は超上得意客で、店長もロラ子も自分のことを好きで好きで仕方がなくなっていると考えていた。

いよいよ運命の日がやってきた。寒汰がマラテのバホレディに三度現れたのである。

11/15,マニラにやってきた寒汰は空港からバホレディに直行した。

寒汰の妄想内ではロラ子はすっかり寒汰に惚れきっており、今晩こそ寒汰に抱かれたくて待ちきれないことになっていたのである。

寒汰は股間から異常に臭い液を噴出させながらバホレディにやってきた。

果たして、やはり片手には異常に汚いビニール袋を握っており、腐ったバナナと安いJINROが入っていた。

持ち込みはお断りだと何度言っても理解しない寒汰であった。

その寒汰の姿を見て、店には緊張が走った。

ロラ子はトイレに駆け込み、中で大泣きをはじめた。

もう彼女にとってこれ以上寒汰の接客をするのは精神的に不可能に近かった。

その時、店長のふくちゃんは、寒汰の姿を見るとプロペラキッド氏に電話をした。

ふくちゃん「実際、困るんですよね。いくらプロペラさんの友達だからってあんな客を連れてこられたら」

プロペラ「あー、寒汰は俺の友達じゃないから。あの人は仲間はずれ一匹狼。ま、迷惑なようならどこへでも突き出しいいから。」

ふくちゃん「そういうことならうちもプロペラさんの知り合いだからってもう遠慮しませんよ」

プロペラ「好きにして。じゃ!」

寒汰が無二の親友と頼むプロペラ氏は関わり合いを恐れてさっさと電話をうちきった。


さて、ボックス席では、寒汰が既に座っていた。そして水と氷を持ってきたスタッフにはこう言い放った。

「おい、水と氷は無料だ!ファーストフード行ったら水と氷は無料でもらえる。だからここでも無料だ!」

毎度のことではあるが、あまりに勝手な言い分に店全体がまたしても凍った。

そして、常識はずれな要求をする寒汰の横では溝鼠に捧げられた花嫁のごとく、ロラ子がグスグスと泣いていた。

寒汰はジンロを水で割ってグビグビ飲み始めた。

「地産地消だ。やっぱりフィリピンではフィリピンの酒を飲むに限る。」

周囲の誰もが「ジンロは韓国の酒だよ」と思ったが、怖くて誰も言い出せなかった。

酔っ払うと寒汰はいつも以上の荒唐無稽な自慢話をはじめた。

「俺、経済の専門家。だから景気対策知ってる!自給自足が最高の経済だ。だから俺、日本製品愛用する!サムスン製品なんか買う奴は朝鮮人だ!分かるか? 日本製品を愛用する俺、偉い!」

そして、韓国製のジンロをまたグビリと飲んだ。

「いいか? 自給自足経済が一番いいんだ。なんでも自国製を買うのがいいんだ。お前ら、覚えておけ!」

周囲の誰もが思った。

『そんなに自国製が良いのなら、わざわざフィリピンに女を買いに来ずに日本で女を買ってください』

「自給自足経済、最高。俺、本当に経済に詳しいだろう。お前、俺に惚れたな?俺、偉い!」

自給自足より自国が相対的に優位な産業に特化するのが世界全体にとってよいというリカードの「比較優位」理論は

経済学の初歩の初歩であるが、人類の科学を超越した寒汰理論の前ではそんなものは軽く吹き飛ばされていた。

気分のよくなった寒汰は今度は店長のふくちゃんを呼びつけ、自分勝手な経営理論を語り始めた。

ろくに何も知らないくせに、説教たれたがるのはフィリピン嵌りのオサーンの特徴であるが、寒汰のそれはやはり常軌を逸していた。

寒汰「いいか?カラオケ(KTV)の売りは何か分かるか?」

ふくちゃん「え?そりゃ可愛い女の子がどれだけ良いサービスするかだと思いますが…」

寒汰「違う!」

ドン、と寒汰はテーブルを叩いた。テーブルにひびが入りふくちゃんは顔がひきつった。

ロラ子は一層身を縮こまらせた。

寒汰「お前、経営が分かってない!カラオケ(KTV)に来る客は何を求めてくるんだ?」

ふくちゃん「女の子と楽しくお酒飲んだり、あわよくば凸凹したいから…」

寒汰は再び大声で怒鳴った。「違う!」

ふくちゃんはさすがに不服そうな表情を隠し切れずに言った「じゃあ、お客さんは何を求めてカラオケに来るんですか?」

寒汰は隣のロラ子のブラの中に手を入れ、痛がるロラ子を無視して思いっきり胸をもみしだきながら言った。

「女なんか関係ない!客は食べ物が欲しくてカラオケ店に来るんだ!」

ふくちゃん「はあ、それは斬新な説ですね…」

寒汰は褒められたと思って、ゲヒヒヒと嫌な笑い声をたてながら、今度はロラ子のスカートの中に無理やり太い手を入れながら言った。

寒汰「そうだろう?俺、経営の天才だからな。客はな、女なんか欲しくない。食べ物が欲しくて店にやってくるんだ。だからな、カラオケ店の売りは食べ物なんだ!」

『売りが食べ物だというなら、それを無料にしろとかダダこねるなよ』と、ふくちゃんは思ったが声には出さなかった。

ふくちゃん「恐れながら..当店ではサンドイッチ、フルーツ、お寿司、焼きそば、大抵の食べものをご用意してますが。」

すると、寒汰は激高して言った。

「うるさい!口答えするな!食べ物が無料じゃないだろう!おまけに俺の好きな食べ物ない!けしからん!こんな店俺が潰してやる!」

頭が悪いくせにプライドだけが妙に高い寒汰はズバリポイントをつかれるといつも激怒するのだった。

『どうして、あんたの好みにあわせて店の食べ物をそろえなきゃいけないんだ。あんた何様だよ。』とふくちゃんは内心思った。

ふくちゃんが寒汰の意見に納得したと思った寒汰は調子にのって続けた。

「いいか?だからな、いい店は、女は無料、食べ物も無料。俺の好みに全部あわせる!そういうことだ。ゲヒヒヒヒ!」

この一言でふくちゃんはふっきれた。これはもう完全な恐喝だからだ。

「私、他の接客がありますので、失礼します」

そう言って、ふくちゃんは、階下のセキュリティを呼びに降りていった。

店長のふくちゃんが居なくなった後も寒汰の狼藉は続いた。

今度はお得意の盗撮である。

店の女の子のスカートの中の写真をとりはじめたのだ。

店のそこら中で悲鳴があがった。

(続く)

フィリピン製ジンロ – カラオケ(KTV)編 XIII

ロラ子は28歳。15歳の時に大恋愛したフィリピン人の彼氏との間に子どもができた。

その後は高校にも行かず、働いてきた。

20歳の時から割の合よい水商売の世界に飛び込んだのは、フィリピーナにしてはかなり遅い方である。

しばらくフィリピン人向けのカラオケで売春婦をしていたが、やがて上客が多いという日本人カラオケに移籍してきた。

このマラテのバホレディーが初めての日本人向けカラオケなので日本語はまだ分からない。

ただ、水商売らしくない元来のおっとりした性格で、下心の薄い上客をつかみはじていた。

子供のアレックスももう13歳。物入りな年である。スクウォッター(不法占拠者)街の狭い家にももう飽き飽きしていたが、このまま上客をつかんでいれば、1,2年でコンクリート製の小さな家くらいは建てられそうである。

「私もなんとか運が向いてきたわね。」

そう、思っていた時であった。

寒汰と名乗る異常に臭くてケチで、そして恐ろしく勘違いした客が現れたのは。

この寒汰との出会いが、ロラ子がほのかに抱き始めていた淡い未来への希望を完全にぶち壊すことになった。

寒汰はマラテのカラオケ店バホレディーに現れ、ヤクザのいやらがらせかと思える程のゴリ押しをしようとした。

  1. 料理と酒の持ち込みを認めろ
  2. 持ち込み料の支払いは拒否する。むしろ値段を下げろ
  3. フルーツを持ってこい。量は1/4でいい。その代わり値段を1/3にしろ
  4. 店内を自由に盗撮させろ

店長のふくちゃんがなんとか断ったものの、寒汰は恐ろしく不機嫌になった。

そして、持ち込んできた腐ったバナナを無理やりロラ子に食べさせようとした。

「アヤウ!」

ロラ子が悲鳴にも近い声をあげた。

寒汰は機嫌悪そうに言った。「フィリピン人は滅多にバナナなんか食べられないだろう。それを俺が食べさせてやるって言ってんだ。ありがたく食え!」

(※ 酔うと饒舌になる寒汰であった)

ロラ子は泣きそうになりながら、店長のふくちゃんの言葉を思い出した。

『お客さんに嫌なことされそうになったら、お店のシステムだからダメって言っておきなさい』

そこで、ロラ子は半泣きになりそうながら言った。

「このお店、お客さんの食べ物食べるダメ」

それを聞いて寒汰は怒鳴りだした。

「この店は何でも『ダメ』と言うんだな!持ち込みもダメ、盗撮もダメ、フルーツの割引もダメ!」

「俺、客! 客のためにルール変える、当たり前!できない店ダメ!俺、怒る!」

周囲にいる誰もが「そもそも無理ばかり言うお前がダメな客だろう」と思ったが、逆切れを恐れて誰も言い出せなかった。

寒汰は持ち込んだジンロをグビグビ下品に飲みながらさらに続けた。

「ふー、ジンロはうまい。俺、ジンロ好きなんだ。だから持ち込みして節約する。どうだ? 問題あるか?」

ロラ子が完全に固まっていると寒汰は満足そうに頷いた。

「そうだ、問題ないだろう。俺、節約家。お前、俺に惚れたな。ゲヒヒヒヒヒ」

野太い気持ち悪い声が店内に鳴り響いた。

寒汰は女がケチに惚れると思い込んでいた。

そもそも、お大尽遊びの文化の上に成り立つカラオケ(KTV)は、ケチが最も嫌われる人種だということに未だ気づいてなかった。

酔っ払い寒汰節はさらに続いた。

「いいか!俺は、アイヌの王子!しかも中国皇帝の末裔なんだ!」

「いつかなあ、中国が日本を占領して、王子の俺を助けだすんだ!いいか!」

「その時にはなあ、俺をいじめた奴ら、みんな泣き叫ぶんだ。ゲヒヒヒヒ!俺、王子!」

日本語がほとんど分からないロラ子であったが、寒汰がとんでもないホラ話をしているのだけは分かった。

『ニッポンジンでもチャイナでもなんでもいいから、もう早く帰って!アコ、コワイヨ!』

またジンロをグビグビ飲みながら寒汰が店内に響き渡るような大声で怒鳴った。

「おい!酒のつまみを持ってこい!無料で持ってこい!」

店長のふくちゃんが駆けつけてきて、有料であることを伝えると、寒汰はカンカンに怒りだした!

「カラオケ店はなあ!安い居酒屋なんだよ!俺が決めた!食料は原価のまま出せ!俺、食料の原価知ってる!俺だけには原価のままで出せ!でなきゃ無料にしろ!」

ふくちゃんはじっとりと汗をかきながらこう思った。

『何様のつもりだ。原価で食べ物食いたいなら自分で市場に行って買い食いしてこい!カラオケは女と遊ぶところ!食事は二の次なんだよ!このキチガイ!』

しかし寒汰の傍若無人はまだ止まらなかった。ジンロをグビグビ飲みながら横でガタガタ震えているロラ子にこう言った。

「俺はなあ、韓国人が嫌いなんだよ。あいつら少数民族のくせに俺らアイヌよりいい目してやがる。

俺が子供の時からいじめられたのは、あいつら韓国人のせいなんだよ。

だからなあ、俺は大和民族として、あいつら韓国人に嫌がらせするんだ。ゲヒヒヒヒヒ!」

滑稽な話だが、寒汰には大和民族とアイヌ人の区別もついていなかった。

頭が弱すぎて正しく歴史が理解出来ないのか、子供の頃、あまりにいじめられた自分が加害者の側の大和民族だと思い込む妄想を持つようになったのかは定かではない。

「いいか?俺、愛国者なんだ。だからなあ俺は、サムスン製品を買う奴、許せない!」

寒汰はここで、ダンとテーブルを思いっきり叩いた。

「サムスン製品を買う奴はみな朝鮮人だ!俺、許さない!」

そしてまたジンロをグビグビと下品に飲んだ。

『ひーー! ジンロも韓国製だよー!』

と、ロラ子は心の中で叫んだ。

寒汰は在日朝鮮人や韓国のことを激しく憎悪していたが、実際のところ韓国・朝鮮のことは何一つ知らなかったし知り合いも一人もいなかった。

ジンロを初めて飲んだのがフィリピンパブだったので、寒汰はジンロはフィリピンの酒だと思っていたのである。

寒汰は飲食店「臭皇(くさおう)」の経営者であったが、実際のところ食に関する知識や感性は素人以下であった。

根菜と黄色野菜の区別もつかなかったし、シニガンの酸味は酢酸が入っているからだと思っていた。

フィリピンと日本で魚や牡蠣が、全く種類も形も大きさも違うのに気がついてなかった。

旬でない秋刀魚を食べて「この秋刀魚はまずい!産地偽装だ!」と大騒ぎを起こして笑いものになったことがあった。

そんな寒汰であるから、ジンロが韓国の酒ではなく、フィリピンの地酒だと思い込んでいるのも驚くべきことではなかった。

ともあれ、ロラ子の受難はまだ続くのであった。

(続く)

 

盗撮ブロガー – カラオケ(KTV)編 XII

寒汰はマラテで最近評判のカラオケ店、バホレディーを追い出された。

当然である。

寒汰は店内で盗撮しまくり、女の子のみならず、他の客の顔写真や踊っているダンサーのスカートの中、使用中のトイレのまで撮影したのである。

それ自体も問題であったが、寒汰は盗撮した写真をブログに掲載して、店や女の子、はては他の客の悪口まで書きまくるのでマニラの多くのカラオケ(KTV)店では困り果てていた。

店長のふくちゃんは柔らかめに「店内は撮影禁止。盗撮した写真をブログに掲載してひどいことを書くのは困りますし」と言った。

しかし寒汰はそれが自分のことだとは全く気づきもせず、

「俺は安心。俺は正義の味方だからブログに自由に盗撮写真を掲載する権利がある」

などと、わけのわからないことを言い始めたのである。

店を追い出された寒汰は怒った。自分のために規則が曲げてもらえなかったのが不満なのである。

フィリピンに関わる日本人の少なからぬ人間は、妙な二重基準(ダブルスタンダード)をもちあわせている。

自分以外の人間がルールに従わないのは許せない。ただし、自分だけは(あるいは自分の仲間だけ)はルールをいくらでも破って良いのだ。恐ろしく自分勝手である。

さらにそれが認められないと逆切れして暴れだすのだ。

 

寒汰はそういうフィリピン嵌りの人間に多い二重基準思考を極端にしたような思考の持ち主だった。

初めて来たカラオケ(KTV)、それも指名料すら値引きしようとしたとんでもなく迷惑な客のくせに、10年来の超上得意のように扱われないと怒り出すのである。

逆切れした寒汰は、10月21日の自分のブログ「魔尼羅・盗撮バージン」で

「バホレディーでは客を狙ったセットアップを行っている!」と書きたてた。

とんでもない言いがかりである。

もはや営業妨害で訴えられてもおかしくない犯罪行為であるが、寒汰は「俺、正義の味方!俺、悪いヤツやっつけた!俺、偉い!!」と、勘違いして悦に浸っていた。

凶悪犯罪を起こす人間は自分が正義漢だと思い込んでいる例が多いらしい。

寒汰はまさにその典型なのだろう。

 

さて、2日後の10月23日、寒汰は再びマラテのカラオケ(KTV)、バホレディーに現れた。

今度は一人である。数少ない友人であるプロペラキッド氏も、さすがにまずいと思ったのか寒汰の誘いを断っていた。

寒汰は何やら重たげな汚らしいビニール袋を手にしていた。

途方もなく嫌な予感がしながら、ふくちゃん店長や店の女の子は「いらっしゃいませ」といつもよりかなり小さめの声で迎えた。実際、全くいらして欲しくない客だった。

果たして、汚らしいビニール袋の中に入っているのは安物のジンロと、半分腐ったバナナであった。

そして、あっけにとられて店員、スタッフが立ち尽くしていると、寒汰が偉そうに言った。

「おい、イカウ!水と氷だ!早く持ってこい!」

今から出来事の予感に恐れおののきながらスタッフが寒汰に水と氷を渡すと、

寒汰はスタッフのポケットに恐ろしく汚い1ペソをねじ込みながら下品に笑った。

「俺、チップ渡す!俺、気前いい!俺、かっこいい!俺、偉い!!」

フィリピンでは1ペソでは、ホームレスすら喜ばない。ホームレスに1ペソを渡してみると投げ返させることさえある。

そんなフィリピンで、仮にもお大尽遊びの流れを組むカラオケ(KTV)で、1ペソでスタッフが喜ぶわけがない。

しかしスタッフは問題に巻き込まれるのを恐れて、極度に顔を怖がらせながらなんとか作り笑いを浮かべて言った。

「さ、さ、サラマポ」

それを見て寒汰は満面の笑みを浮かべながら「俺、気前いい!お前、俺、尊敬する!俺、偉い!!」と叫んだ。

 

さて、寒汰は持ち込んだジンロをグビグビと下品に飲みながら、腐ったバナナをお気に入りのロラ子に無理やり食べさせようとした。

「おい、フィリピン人、バナナ滅多に食べられない!俺、お前にバナナ食べさせる!お前、俺に感謝する!お前、俺にもっと惚れる!お前、俺とSEXしたくなる!俺、賢い!俺、偉い!」

「このバナナ、道で拾った!バナナ、店でオーダーしたら高い!でも、おれ、ただで手に入れた!俺、賢い!俺、偉い!」

寒汰の話す日本語はよく分からないロラ子であったが、腐ったバナナなど食べたくもない。

だいたい、バナナはフィリピンの最重要特産物であり珍しくともなんともないのだが、寒汰はそんな基本的なことも知らなかった。

寒汰は仮にも食品関係者であり、本人の意識の中では自分ほど食べ物に詳しい人間はいないと思っていたが、実は魚の種類も野菜の種類も見分けがつかず、しかも根本的に恐ろしいほどの味音痴であった。

 

さて、腐ったバナナを無理やり食べさされかけたロラ子はトイレに行くふりして逃げ出し、店長のふくちゃんに泣きついた。

「テンチョー、あのオカクサン、頭オカシイヨ!アコ、コワイヨ!」

ふくちゃん店長もほとほと困りながらこう言った。

「とにかく、持ち込みは駄目だといいなさい。店のシステムだと説明すればいいから。怒られたら店長が怖いから、って言っておけばロラちゃんが殴られることはないから大丈夫。」

「テンチョー、アコ、あのオカクサン、もう嫌だよ〜!」

泣く泣くロラ子は寒汰のテーブルに戻っていった。

さて、持ち込み禁止だと聞いた寒汰は激怒した。

「お前、店長の言うなり、ダメ!俺の言う事聞く、当たり前!俺、偉い!」

大声で怒鳴りだした寒汰を見て、店長のふくちゃんがすっ飛んでいき、持ち込みは固くお断りしていることを説明した。

しかし寒汰は収まる様子もなくなおも大声で怒鳴り散らした。

「俺、店のルール嫌い!店のルール、変えろ!俺のため、ルール変える、当たり前!俺、偉い!後でブログに書いてやる!」

このあたりの騒動は寒汰が自分で10/23、10/30のブログに書いている。

自分のためにルールを変えてもらえないことがよほど悔しかったようだ。

 

ともかく持ち込みを断られた寒汰は今度は、フルーツをオーダーすることにした。

「俺、バナナだけ欲しい。」

ふくちゃんはほっとしながら、答えた。

「はい、バナナだけですね。かしこまりました。」

しかし、次の瞬間、耳を疑うような言葉を寒汰は発した。

「バナナだけならフルーツの量は1/4。だから値段は1/3にしろ!」

この言葉に店全体が凍りついた。

さらに寒汰は続けた。

「俺、バナナの原価知ってる!市場で買ったら安い!この店、原価よりフルーツ代高い!お前、ボッタクリ!」

ふくちゃんもほとほとあきれ果てた。

そもそも、カラオケ(KTV)店は女の子とお酒を飲みスキンシップを楽しむ場である。

別に食べ物が食べたくて来るところではない。

食べ物が食べたければレストランに行けばいいし、原価で食べたければ自分で市場に行って買い食いしてくればいいのである。

そもそもこういう店のフルーツは食べるためにあるものではない。

お大尽ぶりを示すための道具の一つに過ぎないのだ。

カラオケ(KTV)店で、フルーツの原価を言い出すのは、パチンコ店で銀玉が原価より高いと、因縁をつけるようなもの、どんな無茶苦茶な理屈だよ、とふくちゃんは思った。

「それは致しかねます」

さすがに堪忍袋の緒がきれたのか、ふくちゃんが凄みながら言った。

それを見て寒汰はしゅんとなり諦めたようである。

素より喧嘩はからっきし弱い寒汰であった。

弱いものには徹底して強いが強いものには徹底して弱い男なのである。

一方、ふくちゃんは思った。こんな狂った客の相手もしないといけないから店長はつらいよ。

さて、フルーツはなんとか諦めた寒汰であったが、今度はまた盗撮写真をバシャバシャと撮り始めた。

店にいる全員がにらめつけてもやめようとしない。

「皆、俺のカメラ、見てる!俺、かっこいい!俺、偉い!」

しかし、写真を見れば、店の女の子たち全員がカメラを睨みつけているのは明らかであった。

そして、店長のふくちゃん、寒汰の指名子であるロラ子の苦悩をよそに、寒汰の非常識な暴れっぷりはまだまだ続くのである。

(続く)

ロラ子 – カラオケ(KTV)編 XI

ある日、寒汰は数少ない友人であるプロペラキッド氏にカラオケに誘われた。

友人からの誘いなど数カ月に一度しかない寒汰は喜び勇んだ。

しかし、根性曲がりな寒汰はこう言った。

「俺、カラオケ嫌い!カラオケ女、生意気!やらずぼったくり!俺、節約する!俺、偉いぃぃいい!」

しかし、寒汰の腐った根性を見抜いているプロペラキッドは鋭い眼光を全く変えることなく

「ま、いいから来なよ」

と、無理やり寒汰をカラオケに引っ張っていった。

なおも寒汰は

「カラオケ行くくらいなら、スラム街の娘を屋台に連れて行って飲むほうが安い。」

とぶつくさと言っていたが、顔は喜色満面であった。

 

そもそも、寒汰は昔からケバ目の綺麗なお姉さんが大好きで大好きでたまらないのであった。

寒汰とプロペラキッド氏が訪れたカラオケ店の名前は星淑女

最近マラテでは評判の店である。

そこで寒汰は運命の女に出会った。名前をロラ子という。

童顔のロラ子は実際は28歳であったが、見た目は10代中盤にも見えないこともなかった。

「女は未成年に限る!」と普段から豪語してやまない寒汰は、このロラ子を見た瞬間、走り寄り嫌がるロラ子の体や手に臭い顔を擦り付けた。

ロラ子は気のいい女であった。

童顔で、編みこみの髪でいっそう可愛らしく見えたが、13歳の子供もおり、

それなりに苦労をしてきたせいもあって、何ごとにも鷹揚であった。

カラオケ/KTV、フィリピンパブではたまにこういう娘がいる。

とりたてて美人ではないが気のいい性格で良質の客がつく。

No. 1 には慣れないタイプだが、安定した成績を残すタイプだ。

ただ欲が強くないせいか、最終的に幸福になるのは難しいのかもしれない。

 

ロラ子は、突然の寒汰の異常な振る舞いや臭さに驚きつつも

「イカウ、タラガナ〜」

と、子供をあやすようにとりなした。

これがまた寒汰の心を揺さぶった。

寒汰はいまだかつて、このように優しく女から接してもらったことはなかったからである。

寒汰はここで言った。

「店長!俺、この女、指名する。指名料割引しろ。」

ケチなことがモテる秘訣だと勘違いしている寒汰であった。

 

寒汰の勘違いアプローチはまだまだ続いた。

席につくなり、寒汰は自慢のニコン製一眼レフで徹底的に写真を撮りまくった。

バシャバシャと大きな音がするので、カラオケ(KTV)店とはいえ、さすがに目立つ。

これはまずいと思ったのか、寒汰の数少ない友人であるプロペラキッドも

「あ、俺、用事思い出した。寒汰さん、ゆっくりしていって。じゃあ!」

と、あっさり帰って行ってしまった。

周囲の人間は完全にひいていたが、気のいいロラ子はついこう言ってしまった。

「イカウのカメラ大きいな〜。かっこいいな、イカウ」

寒汰はこの一言で完全に舞い上がってしまった。

 

自分の席の周囲の客まで盗撮しはじめたかとおうと、

さらに寒汰は自席をたってステージで踊ってる娘のスカートの中まで撮ろうとした。

どうも暗いところでも写真がとれるところをロラ子に自慢したかったようである。

 

これには、さすがに店長が飛んできた。

「お客さん、ちょっと写真はまずいんですよ。うちの店、店内撮影禁止にしてるんです。」

すると寒汰は逆切れした。

「俺、客!店のルール!俺のために曲げる、当たり前!俺、偉い!俺、偉すぎルゥうぅ!」

店長は困惑しながら言った。

「えっとね、ともかく店の写真困るんですよ。店の写真とってブログであることないこと書く変な人がいますからね。」

寒汰がいろんな店で盗撮写真をとり、それをブログに罵詈雑言と共に掲載したおかげで迷惑を被った店は多数あった。

店長も寒汰のそんな悪名は知っていた。だから嫌味のつもりでこう言ったのである。

しかし、寒汰にそんな嫌味は一切通じなかった。

「お前、安心する!俺、ブログで写真載せる!俺、好きなコメント書く!お前、喜ぶ!俺、偉い!俺、本当に偉いぃぃぃぃい!」

寒汰は自分が魔尼羅(マニラ)一評判が悪い日本人ブロガーだと言う意識は全くなかったのである。

 

(続く)

 

俺だけの小さな魔尼羅ワールド – カラオケ(KTV)編 X

正直言って、寒汰はカラオケ(KTV) が大好きであった。

日本で言うところのフィリピンパブ、マニラではカラオケあるいはKTVと言われるそれは

大勢の若い女の子がセクシーなドレスなドレスを着て酌をしてくれるのである。

男ならばこういう場所は嫌いなわけがない。

(実際に通うようになるかどうかは別として)

寒汰も他の男以上に、こういう場所が好きであった。

セクシーできれいで、ケバメのお姉ちゃんたちも大好きであった。

大大大だーい好きであった。

ただし、寒汰は魔尼羅に通いだしてから、カラオケにはあまり通うことはなかった。

その理由はいくつかある。

  1. 金がかかる (たいした値段ではないが、ドケチの寒汰には大問題であった)
  2. 他の客がモテモテなのを見せつけられる (寒汰の自尊心をひどく傷つけた)
  3. 寒汰はどの女の子にも全く相手にされてない (多くの女の子は指名料いらないからと逃げ出した)
  4. 一度として凸凹どころか店外デートすらできない

異常に性欲のつよい寒汰である。

嫌々とはいえ、なんとか凸凹させてもらえる置屋にくらべて、カラオケは寒汰にとってはやらずぼったくりであった。

もちろん、他の客は自由に女の子と店外で会い、凸凹しまくっているのであるが

一切女の子に拒絶されている寒汰はそんな他人の話を涙を流しながら悔しがって聞くしかないのであった。

いつしか、寒汰はこういう負け惜しみを言うようになった。

「カラオケ、ぼったくり!詐欺師が経営してる!俺、賢いからいかない!」

「俺、綺麗な女嫌い!女なんか服脱がせたら同じ!」

「カラオケの女、化粧うまいだけ!女はすっぴんだけ大事!」

「俺、カラオケに行くのは食事するのが目的!女なんか目的じゃない!凸凹できなくても悔しくない!」

酸っぱいブドウの典型であったが、寒汰にはその負け惜しみが他人の誰にもバレバレであることがまるで気がついてなかった。

寒汰は自分自身でカラオケは酷いところだと自分で言い聞かせ、魔尼羅通いを初めてからずっと避けてきたのである。

 

その寒汰がここ最近はカラオケに通うようになったのである。

理由はいくつかある。

まず、寒汰の行動範囲が異常に狭いことがあげられる。

フィリピンは別に買春だけが魅力ではなく、他にもたくさん魅力がある国である。

首都・魔尼羅での買春以外にもいろいろな場所で楽しむことが可能である。

しかし、英語もタガログ語も全く話せず、極度に小心者の寒汰はフィリピンの国内線すら自分一人で乗ることはできなかった。

さらに、国内線の飛行機どころか、長らくタクシーすら友人の助けなしでは乗ることができなかった。

その寒汰の数少ない友人である TOSHIYA 氏はよくこう語っていた。

「あの寒汰のオッサン、笑いもんやで。フィリピンに通いだして3年以上にもなるのにマニラ以外一回も行ったことあらへん。

ワシがおらな、あの寒汰のオッサン、国内線の飛行機どころかアンヘレスも一人で行きよらへんねんで。

ほんまお笑い種やで。ガッハッハッハ。」

ちなみに、TOSHIYA氏に付き添ってもらって行ったカガヤンデオロでは寒汰は

ただの公園を「ここは援交場所だ!俺、発見!俺、偉い!」と勘違いして大騒ぎし、

目の前にある風俗店の写真をとっておきながら英語が読めないのでそれをただのレストランだと勘違いしていた。

語学ができないゆえの勘違いである。

 

寒汰は自分では語学が堪能だという勘違いはますます激しくなるばかりであったが、フィリピンに何十回通ってもタガログ語は相変わらず数単語しか話せず、英語は至っては相変わらず全くできなかった。

そんな寒汰であるから、フィリピンに何十回通おうと、行ける場所は恐ろしく限られていた。

マニラで日本語が通じる場所、風俗店。この恐ろしく狭い世界が、寒汰にとってフィリピンの全てであった。

寒汰にとってはフィリピン経済とは自分が行く日本料理店の客の入りだけであり、自分が行ったときにたまたまその店の客が少なければ、フィリピン全体が二桁成長の好調なパフォーマンスを示していても

「フィリピン経済、大不況! 国が壊れる!俺、心配!」と、大騒ぎした。

寒汰にとってLRTに乗ってチャイナタウンに行くことさえ大冒険であり、一つの外国に行くかのように興奮するできごとであった。

ただ、この日本語の通じる風俗店=フィリピン全体=世界全体だと勘違いする向きは寒汰に限らずフィリピンに買春に行くオヤヂによくある勘違いであることは付け加えておかなければならない。

 

さて、語学が全くできない寒汰にとって、日本語が通じないレストランで食事をすることは大冒険であったが、本人にはその意識はあまりなかったかもしれない。

というのは、フィリピン人は何より「分かったふり」をするのがうまい国民である。

さらに金さえ渡せばなぜか言語の壁を超えても言葉が通じるのである。

「おい、イカウ、俺、あの女とちょっと話したい。あの右端の女だ。分かるかイカウ?」

と言って20ペソでも渡せばフィリピン人はこの日本語が全く分かってなくても

「オオ、ワランプロブレマ」

と、女を連れてくる。

本当に不思議なのだが、金さえ渡せばなぜか言葉が通じるようになる国なのである。

 

もちろん、逆に寒汰がフィリピン人の話を理解できるかといえば、そんなわけは全くなかった。

寒汰が清水の舞台から飛び降りる覚悟で入ったローカルレストランで交わされる言葉は寒汰には全く理解できなかった。

しかし、寒汰には人一倍の妄想力があった。

だから寒汰は勘違いすることで、自分が理解できていると思い込んでいた。

「お姉ちゃん、あの今入ってきた異常に汚らしい客さぁ、追い出した方がいいんじゃない?ウワッ、こっち見た!気持ちワリィ!! 私、注文とりに行きたくないよ!」

これが寒汰の耳にはこう聞こえた。

「お姉様、今、入ってきたあのとっても節約家タイプの素敵な男性、私、大好き♪ 今晩あの人のホテルに泊まりにいこうかしら。あら、こっちを見たわ!いやーん、私とろけちゃう!」

凄まじい勘違いなのだが、彼にはその違いを指摘しててくれる友人もいなかったし、自分で間違いに気づく客観性もなかった。

ただ、自分の周囲の人間がどんどん居なくなることだけは感じていた。

彼はそれが自分に原因があるとは考えず、「我、群居せず!俺、集団が嫌い!だから一人でいるだけ!」とうそぶいた。

彼をひたすら避けている魔尼羅の買春オヤヂたちはこのあまりにバレバレな負け惜しみを冷ややかに笑っていた。

「何を格好つけて「我、群居せず」だ。友達がいないだけだろ?『我、群居できず』が正解だろw」

 

話がそれたが、寒汰の行動範囲は異常に狭かった。7年間毎月フィリピンに通ったが、行った場所は魔尼羅の風俗店と日本語が通じる場所だけ。

しかも友達もいない。

それでも、日本で居場所のない寒汰はひたすら魔尼羅に通い続けたのだが、その全ての場所で女の子に嫌われるのは時間を要しなかった。

それも、寒汰が2010年の今年になって、カラオケ遊びに回帰してきた理由であった。

(続く)